研究課題/領域番号 |
19H00918
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
西村 紳一郎 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (00183898)
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研究分担者 |
田中 良和 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (20374225)
比能 洋 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (70333333)
尾瀬 農之 北海道大学, 先端生命科学研究院, 准教授 (80380525)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Dynamic epitope theory / Glycopeptidic epitope / Epitope defined antibody / Anti-MUC1 antibody / がん治療用抗体 / X線結晶構造解析 / 機能改変抗体 / 二重特異性抗体 |
研究実績の概要 |
申請者らの独創的なアイデアおよび開発戦略によって作製されたED抗体(epitope-defined antibody)を用いて、がん領域におけるアンメットメディカルニーズに応え得る新たながん治療薬の開発を目的として本研究課題を設定した。2019年度(初年度)は多くのがん細胞表面に高発現してがんの増殖や転移を促進することが広く知られるMUC1の細胞外ドメインに生成する多様な動的エピトープを標的とするED抗体である抗MUC1モノクローナル抗体(SN-101, SN-121, およびSN-131)に関して以下の各項目に進展があった。(1)SN-101の作製、特性、構造および機能に関する基礎的研究の成果について論文を発表した(H. Wakui, et al., A straightforward approach to antibodies recognizing cancer specific glycopeptidic neoepitopes, Chemical Science, 2020, in press)。本論文は水溶液中でユニークなコンフォメーションを示す糖ペプチドエピトープの糖鎖とペプチド領域を同時に認識して結合する抗MUC1抗体として構造が示された世界初の事例であり、ED-抗体の概念と基本的な製法を記載した最初の論文としての意義が大きい。また、(2)SN-121およびSN-131についても同様の構造機能解析が進んでおり、SN-131の結晶構造解析を完了した。これらの抗体の高付加価値化を目指してエピトープ認識領域での変異導入による機能改変の試みが開始されている。さらに、(3)SN-131に新たな機能(がん細胞障害活性)を付与するため遺伝子工学的手法により新たな二重特異性抗体の作製を行い、MUC1発現がん細胞を標的として特異的な細胞障害活性を示す新規SN-131キメラ抗体の開発に成功した。以上のように本年度はED-抗体開発戦略の有効性とdynamic epitope理論に基づく新しい抗体デザインに関する基本原理である「抗原構造形成における新たな分子機構」の普遍性を証明する様々な研究が極めて順調に進行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度(初年度)は3つのテーマについてその基盤となる部分について分担者とともに系統的に研究を開始することが実現した。すなわち、①動的な糖ペプチドエピトープを正確に認識する高親和性のED抗体を効率良く獲得するためのより優れた汎用性に富む方法論を確立する:SN-101の作製、特性、構造および機能に関する基礎的研究の成果について論文を発表した(H. Wakui, et al., A straightforward approach to antibodies recognizing cancer specific glycopeptidic neoepitopes, Chemical Science, 2020, in press)。本論文は水溶液中でユニークなコンフォメーションを示す糖ペプチドエピトープの糖鎖とペプチド領域を同時に認識して結合する抗MUC1抗体として構造が示された世界初の事例であり、ED-抗体の概念と基本的な製法を記載した最初の論文としての意義が大きい。 ②ED抗体-動的エピトープ複合体の結晶構造解析とNMRによる溶液構造の解析によりED抗体によるエピトープ認識機構を解明する:SN-121およびSN-131についても同様の構造機能解析が進んでおり、SN-131の結晶構造解析を完了した。また、エピトープ認識領域での変異導入による機能改変の試みが大腸菌による発現系により進められている。 ③抗MUC1-ED抗体から新たな創薬モダリティーを創出する: SN-131に新たな機能を付与するため遺伝子工学的手法により新たな二重特異性抗体の作製を開始した。その結果、MUC1を高発現する乳がん細胞を特異的な標的として細胞障害活性(がん細胞増殖阻止活性)を示す新規SN-131キメラ二重特異性抗体の開発に初めて成功した。以上のように本年度はdynamic epitope理論に基づく新しい抗体デザインの有効性が示され、本研究の根幹をなす基本原理の普遍性を証明する様々な研究が極めて順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
Siglec-9のリガンドとしての機能が最近報告されたMUC1-STをエピトープとするSN131や強力な抗腫瘍活性が期待されるMUC1-STnをエピトープとするSN121の物性と機能を一層向上させるための研究を加速する。すでに、一本鎖Fvをバクテリアで発現する系を構築しているので、Fvの取扱いを容易にするフォーマットとして実績のあるFv-clasp(Takagi et al., Structure 2017, 25, 1611-1622)を採用して新たな機能を有するFv-clasp SN131/SN121の安定大量供給系を確立する。また、ED抗体によるリポソームのDDSを設計するため、研究代表者が既に報告したHelicobacter pylori由来のalpha1,3/alpha1,4-fucosyltransferaseのC末端に位置するユニークな膜局在配列(heptad repeat) を模したモデルペプチド(GGGFKIYRKAYQKSLPLLRTIRRWVKK)がリン脂質DPC膜と特異的かつ強力に結合すること (Nishimura et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 1328-1331) を利用して、リポソームへの高い充填率が期待される膜局在型Fv-clasp SN131/SN121を作製する。これまでに作製された抗体に加えて、新たな標的に対して作製される新規ED抗体および二重特異性抗体など新たな抗体モダリティーについて細胞や動物を用いたがん治療薬として機能の評価および患者血清や病理組織切片等の臨床検体を用いる診断薬としての評価についてもできる限り早期に開始する。
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