研究課題/領域番号 |
19H00921
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
入江 一浩 京都大学, 農学研究科, 教授 (00168535)
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研究分担者 |
喜田 昭子 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (70273430)
徳田 隆彦 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80242692)
村上 一馬 京都大学, 農学研究科, 准教授 (80571281)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 脳神経疾患 / アルツハイマー病 / 有機化学 / 抗体 / 毒性オリゴマー / アミロイドβ / ジスルフィド架橋 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)の発症において重要な役割を果たしているアミロドβタンパク質(Aβ)は、凝集(オリゴマー化)により神経細胞毒性を示す。本研究代表者らは、Aβ42が中央部分で折れ曲がることにより毒性オリゴマーを形成するという「毒性配座理論」を提唱し、本理論により開発した抗毒性ターン特異抗体(11A1及び24B3)は、AD診断において一定の成功を収めた。しかしながら、感度及び特異性の点で改善が必要であるうえ、これらの抗体が認識する毒性オリゴマーの高次構造も不明である。 今年度はまず、抗原ペプチド(E22P-Aβ10-34)と11A1のFabドメインとの共結晶のX線構造解析を行った。その結果、11A1はAβのTyr10からHis14までの領域と結合していることが判明した。これまで、N末領域を認識する抗体は数種類報告されているが、11A1と同じ領域に結合する抗体はない。この領域は、Aβオリゴマー中で分子間β-シート構造をとるGln15からPhe20の領域に隣接しており、毒性オリゴマーのみならずN末端が様々な長さで切断されたAβ凝集体も感度よく検出できる抗体であることが明らかになった。 次に、Aβ42の中央部分のターン構造(毒性ターン)を安定化させる目的で、Glu22及びAsp23からそれぞれ等間隔のアミノ酸残基をシステイン残基で置換した誘導体を系統的に合成したのち、DMSO 酸化して分子内S-S結合を形成させた。得られた各種架橋体のSH-SY5Y細胞に対する毒性ならびにオリゴマー形成能を、それぞれMTT試験ならびにWestern blotting法により調べたところ、Leu17とLys28をシステイン残基で置換して分子内架橋したAβ42誘導体が、E22P-Aβ42と同程度の神経細胞毒性を示すとともに、1 μM以下の低濃度でもオリゴマーを形成することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、懸案であった11A1のFabドメインと抗原ペプチドとの複合体のX線結晶構造解析により、11A1が免疫組織学的染色に適した抗体である理由が明らかになった。11A1は、毒性ターン構造をとるAβを検出するためにE22P-Aβ9-35をハプテンとして作成されたが、毒性ターン部分(Glu22, Asp23)には直接結合せず、Aβオリゴマーにおいて分子内β-シート構造をとる領域(Gln15-Phe20)に隣接する領域(Tyr10-His14)を認識するユニークな抗体であった。一方、24B3抗体とE22P-Aβ11-34との複合体のX線結晶構造解析も予備的に行い、本抗体は、E22Pを中心とした毒性ターン部分を認識していることが明らかになりつつある。 24B3抗体は、ヒト脳内に存在しないプロリン置換体を抗原として作成しているため、野生型の配列をもつAβオリゴマーの毒性ターン構造の検出に適した抗体とは必ずしも言えない。そこで、Glu22およびAsp23を中心として隣接するアミノ酸残基を等間隔で分子内S-S架橋したAβ42誘導体を系統的に合成し、それらの各種生物活性を調べた。その結果、Leu17とLys28をシステイン残基で置換して分子内架橋したAβ42誘導体が、E22P-Aβ42と同程度の神経細胞毒性を示すとともに、1 μM以下の低濃度でもオリゴマーを形成することが明らかになった。本誘導体は、毒性ターン構造ならびにその近傍のアミノ酸配列が野生型であることから、理想的な毒性配座固定モデルであり、今後、抗毒性ターン抗体を開発する上できわめて有用である。そこで、この分子内S-S架橋Aβ42誘導体について、特許申請を行なった。 以上より、本研究は当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の24B3抗体と抗原ペプチド(E22P-Aβ11-34)との共結晶X線構造解析結果を受けて、昨年度合成したAβ42の各種分子内S-S架橋体の中で、特に神経細胞毒性の高かったAβ42誘導体との複合体のX線結晶構造解析を行う。また、本S-S架橋Aβ42誘導体の毒性ターン構造を特異的に認識するマウス抗体を作成する。得られた抗体の特異性は、様々な種類の分子内S-S架橋Aβ42誘導体を用いて調べる。 最近、AβのC末端領域で1,3,5-tri-L-alanylphenyl linkerを用いて架橋したプロペラ型の各種3量体モデルを合成したが、いずれも神経細胞毒性は低かった。そこで、ベンゼン環と比べて柔軟性の高い3価性アルキルリンカーを用いて同様のプロペラ型3量体モデルを合成する。さらに、分子間平行β-シート構造をもつ3量体モデルの合成にもチャレンジする。これらの3量体モデルの生物活性は、SH-SY5Y細胞に対する神経細胞毒性、ならびにマウス脳を用いたLTP(長期増強)の阻害などにより評価する。
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備考 |
アウトリーチ活動 入江一浩:アミロイドβタンパク質とは?~アルツハイマー病研究の最先端~ 第98回サイエンスカフェ伊丹、伊丹市立生涯学習センター(伊丹市)令和元年6月1日.
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