研究課題/領域番号 |
19H00921
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
入江 一浩 京都大学, 農学研究科, 教授 (00168535)
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研究分担者 |
遠山 育夫 滋賀医科大学, 医学部, 理事 (20207533)
喜田 昭子 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (70273430)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / アミロイドβ / 毒性オリゴマー / 有機化学 / ジスルフィド架橋 / 抗体 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)の発症において重要な役割を果たしているアミロドβタンパク質(Aβ)は、凝集(オリゴマー化)により神経細胞毒性を示す。本研究代表者らは、Aβ42が中央部分(22、23位)で折れ曲がることにより毒性オリゴマーを形成するという「毒性配座理論」を提唱し、本理論により開発した抗毒性ターン特異抗体(11A1及び24B3)は、AD診断において一定の成功を収めた。しかしながら、生体内に存在しないE22P-Aβ1-34を抗原として作製した抗体であることから、感度及び特異性の点で改善が必要であるうえ、これらの抗体が認識する毒性オリゴマーの高次構造も不明である。 昨年度、17位及び28位をそれぞれシステイン残基で置換し、DMSO酸化によって分子内架橋したAβ42誘導体(L17C,K28C-SS-Aβ42)が、E22P-Aβ42と同等以上の神経細胞毒性を示すとともに、オリゴマーとして長時間存在することを明らかにした。今年度はこの誘導体の構造最適化を系統的に行った結果、L17homoCys,K28Cys-SS-Aβ42、及びL17Cys,K28homoCys-SS-Aβ42が、L17C,K28C-SS-Aβ42よりもさらに高い凝集性とTHP-1細胞に対する顕著な毒性を示すことが明らかになった。 一方、昨年合成した柔軟性の高い3回対称アルキルリンカーアミノ酸を用いて、毒性配座を取りやすいE22P-Aβ40の36位または38位で架橋したプロペラ型の3量体モデルを合成した。これらのSH-SY5Y細胞に対する毒性を評価したところ、36位架橋体は、38位架橋体と比べて有意に高い毒性を示した。本結果は、Aβ42オリゴマー中に存在が指摘されていたプロペラ型の3量体構造(J. Mol. Biol. 2015, 427, 2319)が、毒性オリゴマーの一つであることを示唆している。さらに38位で架橋した平行β-sheet型の3量体モデルを複数合成し、リンカー長が短いほど高い毒性を示す傾向が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、17位及び28位のアミノ酸残基をそれぞれシステイン残基で置換し、DMSO酸化することによって分子内架橋したAβ42誘導体(L17,K28-SS-Aβ42)が、毒性ターン構造を取りやすいE22P-Aβ42と同等以上の神経細胞毒性を示すとともに、1 μM以下の低濃度でオリゴマーとして長時間存在することを明らかにした。今年度はまず、17、28位のアミノ酸残基の前後で架橋したAβ42誘導体、ならびに17、28位のシステイン残基をホモシステイン残基にそれぞれ置換し、DMSO酸化により得られた各種分子内架橋体の凝集能や神経細胞毒性を調べた。その結果、17位もしくは28位のどちらかにhomoCysを導入した分子内架橋体が、マクロファージ系の細胞であるTHP-1細胞に対してきわめて低濃度(10 nM)で神経細胞毒性を示すことが判明した。同時にそれらの凝集速度も、最初に合成したL17,K28-SS-Aβ42よりも遥かに速かった。来年度以降、これらの配座固定Aβ42ペプチドを抗原とすることにより、昨年度開発した、L17,K28-SS-Aβ42を抗原とする10A1抗体を凌ぐ毒性ターン特異的なモノクローナル抗体が得られる可能性がある。 一方、Aβの毒性3量体モデルの開発は難航していたが、昨年度合成に成功した柔軟性の高い3回対称アルキルリンカーアミノ酸を用いて36位を架橋することにより、初の全長Aβの毒性3量体モデルの合成に成功した。今後、本モデルを最適化することによって、生体内の毒性3量体を特異的に認識するモノクローナル抗体の開発につながる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度取得したAβ42の抗毒性ターン抗体(10A1)を固相に、市販のN末端抗体(82E1)を液相に用いたサンドイッチELISAを作製したところ、血液中のAβ以外のタンパク質が少なからず検出された。一方、逆の組み合わせでは、検出感度が低かった。これらの結果より、10A1抗体は、免疫組織学的染色には適しているが、血液を用いたAD診断には適切ではない可能性が示唆された。今後は、17、28位でのジスルフィド架橋の鎖長を長くしたペプチドを抗原としたモノクローナル抗体を複数作製し、血液を用いたAD診断に適しているかどうかを検討する。同時に、本研究代表者らが開発した毒性2量体モデル(38位での架橋)のリンカー長の最適化を行い、最適化した毒性3量体モデルと合わせて、毒性オリゴマー特異抗体の開発ならびに、それらを用いた超早期のAD診断に繋げていく。
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