研究実績の概要 |
本研究では、核酸構造の幾何学的特徴が遺伝子発現に与える影響を化学的かつ定量的手法を用いて解明し、遺伝子発現制御に関する新たな概念として核酸構造の多次元性(Structural Multidimensionality of Polynucleotides; SMPs)を提唱する。 本年度は、核酸トポロジーによる遺伝子発現制御メカニズムを 【知る】研究を中心に進めた。 1) 分子クラウディング実験系を活用した細胞外での定量的解析: 分子クラウディング環境でDNA二重鎖の安定性を網羅的に解析し、二重らせん構造の熱安定性が最近接塩基対モデルに従うことを見出した(Nucleic Acids Res., 23, 3284 (2019))。また、グアニン四重らせん構造のトポロジー、あるいはカチオン濃度と三重らせん構造の安定性の相関に対する、共存溶質の化学構造による影響を明らかにした(Biochem. Biophys. Res. Commun, 525, 177 (2020)、J. Phys. Chem. B., 123, 7687 (2019)、Molecules, 25, 387 (2020))。 2) 核酸トポロジー依存的な遺伝子発現反応の定量的解析: 複製反応では、i-motif構造の熱安定性に依存したDNAの鎖伸長反応の速度定数との相関を明らかにし(Sci. Rep., 10, 2504 (2020))、鎖伸長反応の定量的な解析の方法論をまとめた(Methods Mol. Biol., Springer, 2035, 257 (2019))。翻訳反応に関しては、転写反応途中に形成される準安定な二次構造が、グアニン四重らせん構造への遷移を妨げることで翻訳反応が滞ることなく進行することを大腸菌内で明らかにした(Molecules, 24, 1613 (2019))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、1.核酸トポロジーによる遺伝子発現制御メカニズムを【知る】、2.核酸トポロジーに起因する遺伝子発現の調節を分子レベルで【見る】、3.細胞レベルで核酸トポロジーを化学的制御に【活かす】、という研究課題を段階的に遂行していくことを3年間の研究期間で計画している。本年度(初年度)は、【知る】研究を中心に進めてきたが、【見る】研究、【活かす】研究に関連する研究成果も得つつある。 i-motif構造の熱安定性に依存したDNAの鎖伸長反応の速度定数との相関を明らかにした研究では、植物フラボノールの一種(フィセチン)が、i-motif構造に相互作用してヘアピン構造のような構造に変化させつつその蛍光シグナルを増強させることを見出した。また、i-motif構造によるDNA鎖伸長反応の停滞を緩和させたことから、i-motifのトポロジー変化と複製反応との相関を可視化しつつ、複製反応を制御できる可能性を示した。また、細胞内で核酸トポロジーを可視化する技術に応用することを目的に、蛍光分子に結合してそのシグナルを増強するRNAアプタマーの取得を細胞内の分子クラウディング環境で行った。その結果、得られたRNAが分子クラウディング環境下で標的分子との親和性を上昇させることが明らかとなった(Small, 15, 1805062 (2019))。 以上のように、一部計画を前倒しした研究成果も得られてきていることから、本研究は当初の計画以上に進んでいると判断できる。
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