研究実績の概要 |
本年度は、これまでに得られている核酸トポロジーの物理化学的な特性に関する知見を活かし、核酸トポロジーとその安定性を自在に変換する化学的手法の開発を中心に取り組んだ。 DNAを標的とした研究例としては、低分子による核酸トポロジー依存的な相互作用と複製反応への影響を解析する独自の手法を開発した。また、得られる情報に基づいて分子の誘導体を合理設計することで、グアニン四重らせん構造(G4)への親和性の向上とG4のトポロジーに依存した複製反応阻害を増強することに成功した(J. Am. Chem. Soc., 143, 16458 (2021))。この手法を用いることで、新規の化合物を系統的に評価することができ、トポロジー特異性を高めたリガンド分子の開発も可能になった(J. Am. Chem. Soc., 144, 5956 (2022))。 RNAを標的とした研究例としては、低分子化合物および人工核酸分子を用いてRNA二次構造の安定化技術を開発した。バルジを含むRNA二次構造と植物由来代謝産物との相互作用を明らかにし、部分的な化学構造の変化がRNAの熱安定性を変化させる要因を複合体の構造解析結果から明らかにした(Nucleic Acids Res., 49, 8449 (2021))。これにより、RNA二次構造のさらなる安定化に向けた化学的な分子の拡張が可能になった。さらに、人工核酸分子として、配列特異的に三重らせん構造を形成するペプチド核酸を開発し、細胞内におけるマイクロRNAの成熟阻害に成功した(ACS Chem. Biol., 16, 1147 (2021))。 また本年度は、本研究課題でこれまでに得られている核酸トポロジーが関与する遺伝子発現の調節機構などを、複数の総説にまとめて発表した(Bull. Chem. Soc. Jpn., 94, 1970 (2021)など)。
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