研究課題/領域番号 |
19H00937
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
貴島 祐治 北海道大学, 農学研究院, 教授 (60192556)
|
研究分担者 |
山本 敏央 岡山大学, 資源植物科学研究所, 教授 (00442830)
長岐 清孝 岡山大学, 資源植物科学研究所, 准教授 (70305481)
小出 陽平 北海道大学, 農学研究院, 助教 (70712008)
金 鍾明 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任准教授 (90415141)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | イネ / 葯培養 / 小胞子 / 個体分化能 / 倍数化能 / イネ種間雑種 / 非還元減数分裂 / 雑種不稔性 |
研究実績の概要 |
本研究はイネの葯培養に関係して大きく2つの内容に大別される。1つ目は、葯の発達初期に内包されている小胞子が高い脱分化能と個体再分化能を有する点に着目した研究。2つ目は、アジアとアフリカに起源を異にする栽培イネの種間雑種の葯培養産物から倍数体(四倍体)植物個体が再生したことに端緒を得て始めた、小胞子の倍数性発生に着目した研究。 2019年度は本研究を行うために組織した分担者を交えて、7月7日に研究の進め方、それぞれの役割の確認を行う会議を開催した。本研究を構成する5つの問題は、1)小胞子から個体分化を誘導するメカニズム、2)イネ小胞子から効率的に個体を再生するシステムの構築、3)イネ種間雑種の葯培養個体で誘導される倍数性の発生メカニズムの解明、4)イネ種間雑種の葯培養個体によって雑種不稔性を回避する遺伝機構の解析、5)葯培養個体から生じた倍数体種間雑種による新しい育種材料の開発。上記の項目で2019年度において主に進展した研究は、3)および5)であった。 3)はO. sativaとO. glaberrimaのF1雑種や得られた四倍体の個体を用いて減数分裂の異常と倍数体形成が密接に関連することを示すデータを得た。減数分裂の第1分裂と第2分裂にそれぞれ非還元が発生することによって、倍数体の原資となる二倍性の配偶体が発生することが判明した。 5)はO. sativaとO. glaberrimaのF1雑種から葯培養を経て、多様な植物体を得ることができ、雑種不稔性遺伝子がヘテロ接合の場合(通常、二倍体では花粉が崩壊する)でも、稔性を有する四倍体を得、これらの個体をさらに葯培養によって二倍体に還元した稔性を有する個体を作出できた。さらに、F1雑種からの葯培養でも高い稔性を有する倍加半数体の二倍体個体を育成した。これらを用いて、現在稔性を獲得する原因を調べるため、遺伝的な解析を行なっている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で計画している上記の5つの研究項目のうち、3)と5)については、実績報告で記載したので、残りの1)、2)、4)についての進捗を記述する。 1)は穂ばらみ期の穂を処理することによって誘導される小胞子の脱分化能を解析する。申請者は、低温が小胞子のエピゲノムに影響を与えることで、脱分化を促進するクロマチンの変化が発生していると考えている。2019年はまず、反復配列を制御するヒストンH3K9me抗体を用いて、葯と葉のクロマチンの構造比較解析を行なって、全体的な葯のヒストンの分布状況を把握することにした。そのための実験として日本晴を用いて、葯や葉のサンプリングを実施した。現在、この実験はChip-seqを終え、データの解析まで進んでいる。また、穂ばらみ期葯の低温処理の影響を調査する実験では、キタアケを用いて低温処理個体および無処理個体から葯のサンプリングを随時進めており、同時に葯からのカルス誘導率についてのデータを得ている。 2)はイネの小胞子から効率的に個体を再生するシステムの構築を目指すもので、条件の検討を行なった。小胞子の発育ステージ、葯からの小胞子の単離条件、培養条件を加味して、カルス誘導率や個体再生率を評価したところ、葯培養で発生するカルス誘導や個体再生よりも100分の1程度低いデータが得られ、これらの条件を改めて試験するよりも、1)のエピゲノムの結果を待って、改善点を推察し、実行することが、研究の進展には有効であろうと考えた。 4)については二倍体と四倍体の雑種個体に対してS1遺伝子座の特定領域をゲノム編集技術によって改変し、その効果(花粉稔性を回復する)が、雑種後代に現れるか、実験を続行中である。
|
今後の研究の推進方策 |
1)については、イネの穂ばらみ期の葯に対する低温処理とその効果について葯のサンプリングとChip-seqおよびそのデータ解析とカルス誘導や葯内の植物ホルモンの消長について解析を進める。 2)は1)の結果を受けて、低温処理のエピゲノムの状態と葯内の植物ホルモン等の関連性から、小胞子培養の可能性を探っていく。 3)イネの種間雑種において減数分裂の異常が小胞子全体のどの程度を占めるのかを明らかにすることと、イネ四倍体植物で種子稔性に差が生じる要因を減数分裂に着目して調査し、因果関係の有無を明確にする。 4)二倍体と四倍体で発生する雑種不稔性の発現の違いを、S1座の対立遺伝子の相互作用の観点から調査する。同遺伝子に施したゲノム編集を有する個体で進めている雑種不稔性の回復程度の観察を行い、四倍体での特徴を探る。 5)高い稔性を有するアジアとアフリカのイネ種間雑種を用いて、その特徴化、すなわち四倍体雑種個体のゲノム構成と減数分裂での構造的特徴や組換えの特性を明らかにする。また、高稔性を生じる原因遺伝子の特定を進めている。
|