研究課題
1.アクセサリー染色体の進化・機能の解明:SMRTシーケンシングによってF. oxysporumの植物病原性株等25株の全ゲノムを解析、分化型特異的ゲノム領域(アクセサリーゲノム領域候補)の特定を開始した。上記25株のうち、2株(キャベツ萎黄病菌とアクセサリー染色体喪失株)の染色体をパルスフィールドゲル電気泳動およびGTBM法によって解析した。遺伝子推定解析、オーソログ解析、転移因子解析、GC含量解析等の方法を活用して、各株のアクセサリー染色体の構造の解析を開始した。キャベツ萎黄病菌において、薬剤処理で作出した染色体喪失株のゲノム解析を行い、親株と比較、喪失したアクセサリー染色体領域を明らかにした。解析の結果、この染色体領域には、リピート配列が蓄積し、病原性因子であるエフェクターが多く座乗していることが確認された。以上の特徴を基に、全ゲノム配列を明らかにした他の菌株においてアクセサリー染色体の推定を開始、これらゲノム領域が真にアクセサリーゲノム領域であるかについての確認、ならびに構造上の特徴や機能について解析を進めている。アクセサリー染色体の構造・機能・特性にあわせた新規ゲノム編集技術の開発を開始した。各株のアクセサリー染色体の特異性に基づき、植物病原性株では宿主特異性やレース識別用、生物農薬成分株では動態モニタリング等のための、PCRやLAMPに基づく特異検出技術の確立を試みている。2. アクセサリー染色体の新奇形質転換ベクターとしての利用:トマト萎凋病菌に最適化したCRISPR/Cas9システムを構築し,相同組換えを介した標的遺伝子破壊ならびに相同鎖の短縮,シングルクロスオーバーを介した塩基編集・ノックイン,単一相同鎖を用いた遺伝子破壊,マイクロホモロジーを用いたノックイン,Target-AIDによる塩基編集技術等の高効率でのゲノム編集技術開発に成功した。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定以上の菌株の全ゲノムを解析、比較、複数株でアクセサリー染色体を特定、座乗する遺伝子の解析を開始していること、また、CRSPR/Cas9システムがFusarium oxysporumで動くことを確認できたことによる。
2020年度は以下のように推進する方策である。1.アクセサリー染色体の進化・機能の解明:平成31年度の25株に加え10株の全ゲノムを解析、比較、各株のゲノム上のアクセサリー染色体領域を特定する。植物病原性株としては、実際の生産場面で被害が大きい、ナス科、アブラナ科、バショウ科等を宿主とし、中でも、宿主とする植物種や品種の範囲を異にする菌株を用い、比較する。パルスフィールドゲル電気泳動による染色体分離・GTBM法による解析を行い、ゲノム解析結果と併せ、各株の染色体数やサイズを確認する。遺伝子推定解析、オーソログ解析、転移因子解析、GC含量解析等の方法を活用して、各株のアクセサリー染色体の構造を解析する。染色体喪失・相補実験等で作出した変異株を用い、アクセサリー染色体上の座乗推定遺伝子の機能を解析する。アクセサリー染色体の構造・機能・特性にあわせた新規ゲノム編集技術を開発、コア染色体では困難と考えられる大規模欠失・再編成技術 の構築と遺伝子機能解析のハイスループット化を試みる。各株のアクセサリー染色体の特異性に基づき、PCRやLAMPに基づく特異検出技術の確立を試みる。2. アクセサリー染色体の新奇形質転換ベクターとしての利用:非病原性株が持つアクセサリー染色体はアクセサリー染色体のプロトタイプと 考えられるため、CRISPR/Cas9システム等を用いて大規模に編集、抗生物質代謝マーカーカセット、エフェクター、二次代謝産物生合成遺伝子カセット等を導入、非病原性株の形質転換を試みる。さらに、代表者らが独自技術として持つ小型染色体分離技術(Kashiwa 2017)を駆使して、 このアクセサリー染色体を分離、PEG法、あるいは、共培養 法等によって、他の株、さらには、他種菌にこのアクセサリー染色体を導入、新奇の菌類形質転換用ベクターとしての利用が可能かどうかの解析を行う。
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