研究課題/領域番号 |
19H00952
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
阪倉 良孝 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (20325682)
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研究分担者 |
菊池 潔 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (20292790)
坂本 崇 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (40313390)
河邊 玲 長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 教授 (80380830)
米山 和良 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (30550420)
中村 乙水 長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 助教 (60774601)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ブリ属魚類 / バイオロギング / ゲノム解析 / 系統類縁関係 / 産卵生態 |
研究実績の概要 |
ブリ属魚類は日本を代表する漁獲魚かつ養殖魚であり、その野生集団の遺伝的構造を理解することは、ブリ属魚類の持続的利用に必須である。さらに近年、漁獲現場ではブリ属の種間交雑現象が認められており、これにより遺伝構造把握が困難となっている。この問題を解決するためには、ブリ属の産卵生態を明らかにするとともに、種間差を識別する遺伝マーカーの取得が必要である。本研究では、日本で漁獲されるブリ属魚類の主産卵場である東シナ海をフィールドとした産卵生態調査と、ブリ類種内の遺伝的構造の理解、および種間雑種現象の把握を目指す。 本邦産ブリ属魚類の遺伝的種内変異を調べるために、2016年から2017年に東シナ海で採取されたカンパチについて、マイクロサテライトマーカーによる遺伝構造解析を行った。日本と台湾間のPairwise FST値は0.0033-0.0091と低く、遺伝的分化は小さかった。ブリ属魚類の種間変異を調べるために、ブリ属魚類3種の多数個体について得た全ゲノム配列データを解析した結果、多数の種特異的マーカー座を得ることに成功した。有効集団サイズを推定したところ、カンパチ>ヒラマサ>ブリの順でその値が維持されていた。 東シナ海産カンパチについて、仔稚魚の分布調査とともに、成魚にバイオロギングを施して産卵期の回遊および産卵行動を解析したところ、本邦産カンパチの主産卵場が東シナ海南端から台湾北東岸にかけての水域であり、その産卵期は春(盛期は1-5月)であることを特定できた。ヒラマサ成魚5個体のバイオロギング調査を実施し、発信器の回収を行い(回収率60%)、行動生態の解析に着手した。放流前に取得した組織標本からゲノム抽出を行い、分担者の開発したブリ属魚類の性遺伝子決定マーカーによって性を特定するとともに、種査定を実施した。その結果、放流した5個体のうち4個体はブリとの交雑個体であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍で野外調査を計画通り実施することができず、一部の計画を繰り越して翌年度に持ち越した。それらの成果も合わせた年度計画の達成は概ね順調と言えるが、時間的な遅れの生じたことから、やや遅れていると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
計画1(種内解析):昨年度は、東シナ海から採取されたカンパチのマイクロサテライトマーカーによる解析結果を得た。今年度は、GRAS-Di解析などによるSNPマーカーを用いた遺伝構造解析を行ない、地域間の遺伝的分化を明らかにする。 計画2(種間解析):昨年度は、ブリ属魚類3種の多数個体について得た全ゲノム配列データを解析した。しかし、近年、日本における漁獲量増加が認められ、種間交雑の懸念が増加しているヒレナガカンパチのデータは含まれていなかった。今年度は、ヒレナガカンパチについて多数個体のゲノム情報を取得して、日本近海にいる全ブリ類を識別する種判別マーカーを開発する。さらに、昨年度得た、ブリ類種間交雑魚の全ゲノム情報を得て、その特徴を明らかとする。 計画3(生態解析):外部形態によりヒラマサと査定した個体がブリとの交雑個体であることが判明したため、次年度はヒラマサの放流数を増やすとともに、得られたバイオロギングデータの精査を進める。また、ブリとカンパチの成魚についても放流調査を行い、それぞれの産卵場を広く探り、交雑の起こる可能性のある海域を特定する。ヒラマサの産卵期が5月以降と推定されたため、仔稚魚の採集調査を6~7月に実施する。
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