研究課題/領域番号 |
19H00953
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
酒井 一彦 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 教授 (50153838)
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研究分担者 |
中村 崇 琉球大学, 理学部, 准教授 (40404553)
井口 亮 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (50547502)
伊藤 通浩 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 助教 (80711473)
頼末 武史 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 准教授 (50766722)
仮屋園 志帆 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 日本学術振興会特別研究員(PD) (00815334)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 造礁サンゴ / 地球温暖化 / 進化的変化 / エピジェネティクス / 細菌叢 |
研究実績の概要 |
過去の野外調査で明らかとなった、高温ストレス履歴の異なるサンゴ礁で同種サンゴを採取し、高温ストレス履歴の違いによってサンゴおよび褐虫藻の遺伝的およびエピジェネティック変異に違いがあるかを、EpiRADSeq法により解析した。またこれらサンプルについて褐虫藻の種同定と細菌叢解析も行い、高温ストレス履歴の異なる環境で生育してきた同種サンゴの褐虫藻種組成と細菌叢に、違いがあるかも検証した。 過去に高温ストレスを受けたサンゴ礁と、ストレスをあまり受けなかったサンゴ礁から同種サンゴ片を採取し、常温と高温で飼育し、サンゴと褐虫藻の遺伝組成及び実験期間中のエピジェネティック変異の起こり方、細菌叢に高温ストレスが影響するかを検証する水槽実験を行った。 ミドリイシ属サンゴの1種の全ゲノム塩基配列決定を行うために、次世代シークエンスとナノポアシークエンスにより、ゲノムDNAの塩基配列情報を取得した。また同一種の別個体より、トランスクリプトーム配列を取得した。 高温ストレスを経験したサンゴが世代をまたがってストレス耐性を維持しうるかを検討するために、異なる高温ストレス履歴を持つ同種サンゴ集団から得られた群体を対象に、サンゴ産卵時に得られたサンゴ幼生を用いた実験系の構築と、幼生着底評価の予備実験を行った。2種のサンゴ幼生を異なる水温条件で飼育し、サンゴ産卵時期の水温がどれくらい高温となれば、サンゴ幼生の生存と定着に影響が及ぶかを検討した。 屋外飼育実験によって水温変動幅の大きさが異なる条件を設定し、水温変動が同種サンゴの生残、成長および呼吸代謝に及ぼす影響を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
沖縄県本部町海域において、高温ストレスの履歴の異なるサンゴ礁から、高温に弱くかつゲノムが解読されているコユビミドリイシのサンゴ片を採取し、DNAを抽出し、EpiRADSeq解析を行った。得られたショートリードデータをゲノム配列にマッピングして、SNPsデータを抽出した。その結果、サンゴについては遺伝的変異よりもエピジェネティック変異でより顕著な分化が確認された。 過去に高温ストレスが強かったサンゴ礁と弱かったサンゴ礁各1地点からコユビミドリイシの群体片を採取し、実験室内に常温区(23℃)と高温区(29℃)を設定し、30日間飼育実験を行った。実験開始前、高温開始時、高温終了時、実験終了後にサンゴ片を固定し、サンゴと褐虫藻のEpiRADSeq解析と、細菌叢のメタゲノム解析を行った。遺伝子解析は現在進行中であるが、石灰化率の違いから、高温ストレスの強かったサンゴ礁に由来するサンゴがより高温に強いことが示唆された。 ミドリイシ属サンゴの1種の全ゲノム塩基配列決定を行うために、凍結精子からゲノムDNAを抽出し、次世代シークエンスとナノポアシークエンスにより短い塩基配列(ショートリード)と長い塩基配列(ロングリード)を決定した。 水温変動幅を変えてコユビミドリイシを屋外で飼育した結果、夏季にのみにより大きい水温変動がサンゴの生残・成長に、より強い負の影響を及ぼした。これから温暖化が進むことで、水温変動が大きいサンゴ礁のごく浅い環境を主な生息域とするサンゴ種での、高温ストレスの増加が示唆された。 コユビミドリイシとミドリイシ属の1種の幼生を異なる水温条件で飼育した結果、それぞれの種の産卵時期における平均的な水温を3℃上回る水温が、幼生の生残に強い負の影響を及ぼす水温閾値であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
沖縄県恩納村海域において、高温ストレスが強い、弱い、中程度の地点をそれぞれ3つ設定し、高温に弱いコユビミドリイシと強いパリカメノコキクメイシからサンゴ片を採取し、異なる温度環境間での比較を行う。同じサンゴ礁から採取したコユビミドリイシとパリカメノコキクメイシのサンゴ片を常温と高温で飼育し、EpiRADSeq法による解析を行い、サンゴと褐虫藻のエピジェネティック変異の程度を種間で比較する。これらサンゴ片について褐虫藻の種判別を行い、細菌叢も併せて解析し、高温ストレスとサンゴの遺伝的分化、サンゴと褐虫藻のエピジェネティック変異、褐虫藻の種の違い、およびサンゴ細菌叢の関係を多角的に検証する。 昨年度取得したミドリイシ属の1種のゲノム配列及びトランスクリプトーム配列を用いて、アセンブル・アノテーション情報の整理を行う。得られた配列情報を、これまでゲノム配列が取得されているミドリイシ属の他種と比較することで、遺伝子情報の全容把握を進める。 今年度確立した手法でサンゴの配偶子を確保し、エピジェネティック変異と遺伝子発現解析用のサンプルを確保する。それらサンプルから、EpiRADSeqによるSNPs解析用のデータ取得とRNASeqによる遺伝子発現データ取得を進める。また、親群体が曝露された温度環境の履歴が、次の年に形成される配偶子形成および幼生、稚ポリプの高水温耐性に関連するかを明らかにするための実験を行う。 2016年にサンゴの大規模白化が起こった石西礁湖と西表島において、2015年以前の調査データがある、高温による攪乱強度が異なった海域でサンゴ群集調査を実施し、大規模白化前後に出現頻度に変動がみられるサンゴ種群を特定する。また西表島において、2015年以前に採取したコユビミドリイシとクシハダミドリイシを同じ地点で再採取し、大規模白化前後でのサンゴと褐虫藻の遺伝的組成を比較する。
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