研究課題/領域番号 |
19H00973
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
村上 洋太 北海道大学, 理学研究院, 教授 (20260622)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 転写速度 / RNAポリメラーゼ / ヘテロクロマチン / RNAi / RNAプロセシング |
研究実績の概要 |
本研究ではRNAポリメラーゼⅡ(Pol2)のC末ドメインのSer7(CTD-S7)のリン酸化が転写のブレーキとして転写速度を制御し、それがエピゲノム制御、RNA動態制御に深く関与するという申請者独自の知見にもとづき、「CTD-S7リン酸化による転写速度制御を介したゲノムワイドな遺伝子発現の協調的制御機構を理解する」ことを目的として解析をおこなっている。2019年度は以下の成果を得た。 (1) CTD-S7リン酸化による転写速度及びRNAプロセシングの制御:合成途中のnascent RNAを検出し転写の動態を観察できるPRO-seq及びRNA 3’末端プロセシング因子を用いた解析によりctdS7A変異により、ctdS7A変異により 転写中のPol2の速度が実際に増加することを明らかにするとともに、 mRNAの3’末端でのRNAプロセシングが影響をうけることを明らかにした。 (2)転写速度によるヘテロクロマチン制御の確認:すでにctdS7A変異によりRNAi機構によるヘテロクロマチン形成が阻害されることを見いだしている。上記結果からctdS7A変異による転写速度増大がRNAi機構を阻害していることが予想された。そこで転写速度を早める既知変異(rpb1-E1106G)を導入したところctdS7A変異と同様にセントロメアヘテロクロマチンの形成阻害がおこることを見いだした。 (3) ctdS7E変異の抑制変異の単離:リン酸化状態を模倣するctdS7E変異は致死となるがCTDのリピート数を野生型の29から18に減少させると、18℃あるいは36℃では生育できない温度感受性を示す。そこで、CTDS7リン酸化と遺伝学的に相互作用する因子を同定するために、高温での生育阻害を抑制する復帰変異株の単離を試み、複数の候補株を得た。いずれも高温耐性とともに低温耐性を示している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の鍵となるCTD-S7変異で転写速度が速くなること、言い換えるとCTD-S7リン酸化が転写のブレーキとして機能する事をPRO-seqにより直接示すことができた。また、他の転写速度が速くなる変異でもRNAi依存ヘテロクロマチンが阻害されることを示し、転写速度とクロマチン制御の連携を証明することができた。さらに、遺伝学的アプローチによりCTD-S7リン酸化と遺伝的相互作用する因子のスクリーニングも順調に進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
CTD-S7リン酸化が転写速度を制御することや、それがエピゲノム制御にかかわることは示せたが、リン酸化と転写速度をつなぐメカニズムの解明が次の課題となる。以下のアプローチを試みる。 (1) 遺伝的相互作用因子の探索:すでにCTD-S7Eの抑制変異株は単離できているので、これらの株の変異遺伝子をゲノムシーケンシングにより同定し、得られた因子について変異体を作成し転写速度とどのように関与するのか解析を進める。 (2) CTD-S7リン酸化依存的にPol2に相互作用する因子を、Pol2複合体を精製・質量分析により同定する。同定した因子について、変異体を作成し(1)と同様の解析を進める。 さらに、ctdS7A変異体で転写速度が上昇した際のクロマチン構造への影響はヘテロクロマチンに絞って解析してきたが、ゲノム全体に及ぼす影響について、ChIP-seqによるヒストン修飾の変化、ATAC-seqによるクロマチン構造変化などを用いて解析する。
|