研究課題
哺乳類においてレトロトランスポゾンに高い相同性を示すインプリント遺伝子Peg10、Peg11/Rtl1は、胎盤形成や機能維持に必須の役割を果たしている。本申請では、これらが胎盤固有の組織でどのような固有の機能を持つのかを明らかにする。さらに、Peg10に関しては母子間の免疫寛容、PEG11/RTL1に関しては胎児期/新生児期特異的な筋肉形成における機能について、個体レベル、細胞レベル、タンパク質レベルでの解析を行い、哺乳類の個体発生の特殊性を明らかにするとともに、これらの遺伝子獲得が胎盤の出現や胎生機構への適応に果たした系統発生(進化)における意義を明らかにする。また、これらと同じレトロトランスポゾン由来の獲得遺伝子であるSIRH/RTL遺伝子群についても同様の解析を進める。特に、脳機能に関するSirh3/Rtl6、Sirh8/Rtl5, Sirh11/Rtk4に関しては、その機能だけでなく脳内での発現部位や発現時期の特異性についての解析を行う。本年度において、Peg10に関してはプロテアーゼモチーフに変異を持つ変異体が胎盤の胎児毛細血管の異常により周産期致死になることを見出し、Peg11との協調作用があることを示唆した(論文投稿中)。Peg11/Rtl1に関しては筋肉発生に関しての論文を公表(Development 2020)、また脳の皮質脊髄路、脳梁、海馬などでの発現を確認し、KOマウスの示す行動異常から鏡ー緒方症候群、テンプル症候群に見られる精神疾患の主要原因遺伝子であることも突き止めた(Genes Cells 2021)。。Sirh3/Rtl6に関しては、Sirh8/Rtl5遺伝子とのタンパク質相互作用発見し(論文投稿中)、これらの機能解析を行っている。
1: 当初の計画以上に進展している
Peg11?Rtl1に関しては機能解析が予想以上に発展し、脳機能における重要な機能を明らかにすることができた。皮質脊髄路や脳梁は哺乳類特異的、真獣類特異的な脳構造であり、これらの機能進化だけでなく構造の進化にも関係していることが予想された。本年度の筋肉での役割と合わせて、ゲノムインプリンンティング疾患である鏡ー緒方症候群、テンプル症候群に見られる胎盤、筋肉、脳の全ての異常症状の、主要原因遺伝子としてPEG11/RTL1が関与していることを明らかにできた。Sirh3/Rtl6遺伝子に関しては、タンパク質レベルでSirh8/Rtl5と関係があることが明らかになったことで、これらの遺伝子群の脳内機能に関して、非常に重要な新しい方向性が打ち出せた。
新たに発見したPeg11/Rtl1の脳機能への解析を推進する。特に真獣類特異的な脳梁構造の形成にどのように関係するのかを明らかにする。Peg10に関しては哺乳類特異的な胎盤のトロホブラスト細胞の分化にどのように関与するのか、最終的な実験で明らかにする。また、プロテアーゼ変異の胎盤の胎児毛細血管における機能と母子免疫の関係を明らかにする。Sirh3/Rtl6とSirh8/Rtl5の関係に関しての論文投稿を急ぐ。
すべて 2021 2020 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 1件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
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