研究課題
本申請研究は、植物発生学、有機合成化学、分析化学の専門家の綿密なコラボレーションを通して、化学の力で気孔の数と分布を制御する未知のメカニズムに斬り込むとともに、化合物による有用植物のバイオマス促進に繋がるものである。具体的には、名大ITbM独自の化合物ライブラリーのスクリーニングと候補化合物の作用から見えてきた、今まで全く知られていなかった気孔発生と植物の成長とストレス応答のトレードオフや、新たな経路の関与を、標的因子の同定を介して迫ることを目的とする。本年度は、主に気孔の数を増やす化合物kC9とChattyの生理機能の解析と標的候補因子の探索を行った。 さらに、気孔幹細胞であるメリステモイド細胞の増殖に分化にも着目し、非対称分裂を亢進する効果のある化合物MC3、および幹細胞性を停止させる効果のあるAYSJ929に関しても詳細に解析した。(1) kC9 - kC9の気孔のパターン形成に対する効果は、免疫シグナル伝達を活性化させることにより無効化する。そのため、kC9は気孔形成と免疫シグナル伝達経路に共通する(しかし正常な状態ではクロストークすることのない)因子に対して作用すると考え、両経路の共通因子であるMAPキナーゼに着目した。(2) Chatty -おもにERストレス経路との関連を追求するとともに、Chatty構造類縁体の効果的な有機合成法を研究分担者(村上)が開発した。類縁化合物を固相したアフィニティー担体の作出に成功。研究分担者(桑田)の主導のもと、アフィニティー精製法による標的因子同定への予備実験をおこなった。(3) MC3と(4) AYSJ929 - メリステモイド細胞への効果を、気孔系譜の様々な突然変異体やマーカー系統を用いて解析した。
2: おおむね順調に進展している
気孔の発生と分化に特徴的な影響を与え、かつ、植物の生育に強い阻害作用を示さない、これら4化合物について、発生遺伝学的および生化学的な解析をすすめた。(1) kC9 - 標的タンパク質候補である一次代謝経路キナーゼとkC9との結合を計測するとともに、MAPキナーゼとの結合についてもさらに解析した。kC9は、一次代謝経路キナーゼ活性への阻害効果を持たないことがわかったため、単純に阻害剤として働くわけではなく複雑な作用機序が推察された。また、一次代謝経路キナーゼの多重変異体ではkC9感受性が若干低下していた。(2) Chatty - RNAシーケンスを行い、ChattyがERストレス経路の遺伝子発現に影響を与えるというデータを得た。そこで、ERストレス経路を制御する因子を欠失する突然変異体の表現型を調べたところ、気孔の数と分布に異常が生じることがわかった。同時に、Chattyの標的因子同定に向け、研究分担者(村上)の合成した類縁体をカラム担体に固相化し、アフィニティー精製後のプロテオームの質量分析を研究分担者(桑田)と試みた。予備実験の結果は、多くのタンパク質が非特異的に精製されており、さらなる条件検討の必要性が示された。(3) MC3と(4) AYSJ929 - 気孔系譜の突然変異体やマーカー系統を用いた表現型解析から、MC3は、気孔系譜の非対称分裂を亢進させることが解った。複数の構造類縁体を用いてSAR(構造活性相関)を解析した。逆に、AYSJ929は、メリステモイド細胞から孔辺母細胞への分化を司るマスター転写因子MUTEの活性を阻害するとことが示された。MUTEのプロモーター活性には全く効果を及ぼさなかったため、MUTE-SCREAM転写因子二量体の活性や安定性へ作用する可能性が考えられた。
(1) kC9 -一次代謝経路キナーゼがkC9を介してMAPキナーゼ経路の活性を調節する可能性を、リン酸化プロファイリングおよび構造生物学的手法を用いて検討する。また、一次代謝経路キナーゼの組織器官発現パターンや細胞内局在がkC9によって変化するかどうか調べる。(2) Chatty - ER経路阻害の可能性をさらに検討するとともに、アフィニティー精製と質量分析の条件検討を行い、候補因子のリスト化に繋げたい。(3) MC3 - 構造類縁体を用いたSAR (機能活性相関)を詳細に解析し、アフィニティー担体の作出の可能性を検討する。構造的にアルキル鎖の導入が難しい様であれば、DARTSなどラベルフリープロテオミクスを用いた標的候補因子の同定を試みる。(4) AYSJ929 - in vitro転写翻訳したMUTE-SCRMヘテロ二量体のプルダウン、in plantaでの BiFC、さらにシロイヌナズナ気孔系譜の細胞からの免疫共沈などの手法を用いて、AYSJ929がMUTE-SCRMのヘテロ二量体形成を阻害する可能性を検討する。さらに、MUTEタンパク質の分解を促進する可能性に関しても生化学的に追求する。これら解析と並行し、化合物と構造類縁体の合成法、NMRと質量分析による構造の再確認を行い、論文作成に向けてデータを整理する。また、今年度と来年度はこれら4種類の化合物に集中するものの、ここまでたどり着くために行った数万化合物ライブラリーのスクリーニングと50程度の候補化合物についてもデータを整理し、研究コミュニティーに役立つ形での公開につなげたい。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 10件、 査読あり 13件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 5件、 招待講演 6件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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