研究課題/領域番号 |
19H00990
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鳥居 啓子 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 客員教授 (60506103)
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研究分担者 |
望田 啓子 (桑田啓子) 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 特任講師 (70624352)
村上 慧 関西学院大学, 理学部, 准教授 (90732058)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 低分子化合物 / 植物の発生 / 気孔 / 生理活性 / 構造活性相関 / ケミカルバイオロジー / 非対称分裂 |
研究実績の概要 |
本申請研究は、植物発生学、有機合成化学、分析化学の専門家の綿密なコラボレーションを通して、化学の力で気孔の数と分布を制御する未知のメカニズムに斬り込むとともに、化合物による有用植物のバイオマス促進を究極的に目指すものである。本年度は、気孔の数に強く影響を与える4つの化合物と、それら化合物の一連の構造類縁体に関して解析を継続した。また、気孔パターン形成のシグナル伝達因子を欠損する突然変異体や、気孔の幹細胞維持に欠かせない細胞周期因子を欠損する突然変異体を用いることにより、これら化合物の作用機序に糸口をつけた。具体的には、気孔を増やす化合物MC3とkC9は、一見、どちらも気孔系譜に正に作用する。しかし、気孔系譜の細胞周期因子の突然変異体に添加すると、MC3では表皮と気孔のハイブリッド細胞が形成されるのに対し、kC9では逆に異常細胞が減少し正常に見える気孔が作られる。さらなる分子遺伝学的および細胞発生学的解析から、それぞれの化合物が作用するpathwayが明らかになってきた。さらには、気孔を増やすChattyという化合物は、小胞体ストレスに関わることが示され、具体的な作用経路についての解析を進めている。また、気孔の一過性幹細胞の発生停止活性を持つ新奇化合物AYSJ929は、発生遺伝学的解析から、気孔分化の司令転写因子であるMUTEの活性を阻害することが示唆されていた。本年度、実際にMUTE-SCREAMの転写因子二量体の結合を弱めるという予備データを得た。これらの化合物の機能と標的候補因子との結合測定を通して、気孔の発生に関わる新規経路や、細胞周期と発生運命などの関連性に関する新たな知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、コロナ禍により、研究代表者が米国から帰国できなくなったこと、さらには、AYSJ929の化合物合成とシロイヌナズナ表皮に対する効果を解析していた大学院生とスタッフ(ともに外国人)が母国から日本に戻れない時期が続いていたが、不安に反しておおむね進展が見られた。気孔を増やす化合物kC9に関しては、気孔発生のペプチドホルモンー受容体キナーゼの下流因子であるMAPキナーゼ活性を阻害すること、それだけでなく、植物免疫応答のシグナル伝達因子にも作用し、一過的にMAPキナーゼ経路を阻害することが明らかとなった。Chatty に関しては、おもにERストレス経路との関連を詰めるとともに、Chatty構造類縁体の効果的な有機合成法を開発した研究分担者(村上)とともに、アフィニティー担体の活性測定をおこない、研究分担者(桑田)の主導のもと、アフィニティー精製法による標的因子同定への予備実験を継続した。AYSJ929 に関しては、気孔発生の突然変異体- メリステモイド細胞への効果を、気孔系譜の様々な突然変異体やマーカー系統を用いて解析した。その結果、AYSJ929はMUTEの機能阻害を果たしていることが示され、MUTEとSCREAMの転写因子ヘテロ二量体の結合を直接防いでいることを示唆するデータを得た。さらに、MC3は、気孔系譜細胞の細胞周期の制御因子を欠損した突然変異体の弱い表現型を強くエンハンスするという知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
(1) kC9 -現在、MAPキナーゼにkC9が直接結合する、および、一次代謝に関わるキナーゼに結合しMAPキナーゼの活性を制御する、という2つの異なる仮説のどちらも支持するデータが得られている。そのため、両者が関わるのか、どちらかが正しい仮説であるかをはっきりさせ、その分子レベルでの作用機序を明らかにし、論文投稿へつなげたい。 (2) Chatty - 小胞体ストレス経路との関連性をつめ、論文作成を目指す。標的候補因子が多数ありすぎるため、それら因子を欠損する突然変異体の化合物応答などを介して、候補因子を狭めたい。 (3) MC3 - 気孔前駆体細胞のG2/M周期に対する作用、および非対称分裂を介した表皮細胞と孔辺細胞のアイデンティティー保持を破綻させるメカニズムに関して、一細胞発現解析を通して明らかにしていきたい。 (4) AYSJ929 - in vitro転写翻訳したMUTE-SCRMヘテロ二量体のプルダウン、さらにシロイヌナズナを用いた免疫共沈などの手法を用いて、AYSJ929がMUTE-SCRMのヘテロ二量体形成を阻害する可能性を継続して検討する。これら解析と並行し、化合物と構造類縁体の合成法、NMRと質量分析による構造の再確認と、論文作成に向けたデータ整理を継続して行う。
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