研究課題/領域番号 |
19H00992
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鹿内 利治 京都大学, 理学研究科, 教授 (70273852)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 光合成 / 葉緑体 / 電子伝達 / PTOX / PGR5 / Flv / シトクロムb6f複合体 / 光化学系Ⅰ |
研究実績の概要 |
クラミドモナスPTOX2遺伝子をシロイヌナズナの野生株及びサイクリック電子伝達を欠損するpgr5変異株に導入し、導入遺伝子をホモに持ち、PTOX2を高蓄積するラインをT3世代で、それぞれ二つずつ選抜した。形質転換体は野生株と同様に生育し、クロロフィル蛍光解析により、in vivoでのPTOX2活性(光照射後のPQプールの一過的還元の抑制)を確認した。野生株背景で、定常光合成時において、ほとんどPTOX2の影響は確認できなかった。しかし、pgr5背景で、NPQの回復が観察された。130マイクロEの光強度で光合成を誘導したところ、野生株背景で、誘導直後からPTOX2に依存したPSIIの高い量子収率が確認された。PTOX2自体は、プロトン勾配を作らないが、PSIIの活性と連動することでルーメンを酸性化し、NPQの早い誘導が観察された。またPSIは光照射直後から酸化された。このことは、PTOX2が光合成誘導時に安全弁として機能し、PSII活性を介して、チラコイドルーメンを酸性化していると考えられる。一方、pgr5背景においても、PSIIの高い量子収率とNPQの早い誘導が観察されたが、PSIは還元されたままであった。この植物の解析から、デルタpHの誘導に依存しない、PGR5のP700の酸化機能が存在することが明らかになった。この結果に基づき、PGR5のアクセプター側のPSI光阻害回避への貢献を見直す必要があることが明らかになった。 また、シトクロムb6f複合体のブレーキの強さを任意に調節する目的で、Cas9-PmCDA1のシステムを利用して、petC遺伝子に一連の変異を導入した。 KEA3高発現株にヒメツリガネゴケのFlvを導入した植物を作成し、電子伝達解析を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
変動光下での解析を含めて、やや解析に時間を要したものの、PTOX2の導入から、今まで見えてこなかったPGR5依存のサイクリック電子伝達の機能が明らかになった。これは、合成生物学的アプローチを採用した狙い通りの成果である。 シトクロムb6f複合体の変異導入も予定していた数を上回ったが、形質転換体の作出が順調に進んでいる。 また、KEA3の大量発現の効果についても、興味深いデータを取得しており、順調に計画が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
PTOX2のこれまでの成果については、論文にまとめる。さらに変動光下でのデータを蓄積しており、2021年度は、この研究をまとめる。 シトクロムb6f複合体に変異を入れた一連の植物をホモ化し、複合体でのブレーキのかかり具合をDUAL-PAMで評価する。適切に改変された植物が得られれば、pgr5やFlvなど一連の遺伝子を導入する。 KEA3大量発現ーFlv株の解析は、変動光下で野生株を凌ぐ光合成を行う可能性が示唆されており、ガス交換、生育試験など光合成の評価を行う。
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