研究実績の概要 |
細胞集団運動は細胞間接着を保ったまま細胞が移動する現象で、その理解は組織発生、創傷治癒、癌細胞浸潤などを理解するうえで極めて重要である。細胞集団運動時には上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)を介したERKマップキナーゼの活性化が先導する細胞から後方のの細胞へと連鎖反応的に誘導されるERK活性波伝播現象を発見している。2019年度の成果である目標1の研究テーマはすでに論文として発表した。2020年度は、目標3の細胞集団運動を制御するEGFRリガンドは何かについて主に研究を行った。まずMDCK細胞で発現しているEGFRリガンドを既知のRNA-SeqデータおよびqPCRにて探索した。その結果、EGF, HBEGF, TGFα, EREGの順に発現量が多いこと、それ以外の遺伝子の発現は検出できないことが判明した。そこで、この4種類のEGFRリガンドのノックアウト細胞株を樹立したが、ERK活性波伝播現象には影響を与えなかった。そこで、量の多い順からさらに遺伝子ノックアウトを行った。その結果、4種類をノックアウトして初めて、ERK活性波伝播現象が減弱し、これらのEGFRリガンドの重畳性が明らかになった。目標2については、細胞運動時の細胞膜の変化をSICMで観察するとともに、低分子量Gタンパク質Rac1との活性も観察する系を確立した。目標4については観察をすすめるためのEGFRリガンドプローブの作成を行った。すなわちEGF, TGFα, HBEGF, EREGの分子プローブを作成し、期待通りに細胞膜に発現すること、細胞外に分泌されること、の確認ができた。
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