研究課題/領域番号 |
19H00994
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
近藤 滋 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (10252503)
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研究分担者 |
船山 典子 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30276175)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 棒状構造 / 形態形成 / カイメン / ゼブラフィッシュ / アクチノトリキア |
研究実績の概要 |
近藤チーム 今年度はACを束ねる細胞であるMCに着目し、インビトロ、インビボで研究を進めた。インビボでは、ACとMCの空間的な位置関係を詳細に調べるために、SIB-SEMを使い、ヒレ先端部において、ACとMCがどのような位置関係にあるのかを調べた。その結果、平行に並んだACの一本一本にMCの膜状突起が包むように絡みついていることが解った。その形状から、MCの膜状突起が、ACの隙間に入り込むことで、AC間の直接の接触を阻止しており、そのため、ACの融合を阻害している可能性が示唆された。さらに、膜状突起の先端部が基底膜と接していることから、MCと基底膜に挟まれるようにACが整列することが示唆された。インビトロ実験では、MCとACの挙動を観察した。複数のACをMCと培養すると、MCが巻き付いていく過程で、複数のランダムに配置したACがきれいに整列するさまが観察された。この事実はMCによるACの整列をインビトロで再現できたことを示し、大きな発見となった。 船山チーム カイメン骨片骨格形成機構を担う各種作業員細胞の、より詳細な細胞挙動を捉えることを大きな目的に、2019年度は細胞の蛍光可視化の第1歩として、以下を試みた。1)すでに確立済みの発現プラスミド導入法による一過的に蛍光タンパク質発現法を用い、確率的にTransport cells、または骨片を繋ぐ細胞が可視化されることを期待、これらの細胞種が蛍光可視化された場合には、詳細なタイムラプス撮影による観察を行い詳細な細胞挙動を解析する。2)DiIなどの細胞膜染色蛍光色素を、カイメン体内のTransport cellsに添加、特異的に蛍光ラベルし、1)と同様ライブイメージングにより詳細な細胞挙動を解析する。進捗状況に記載するが、取り組みの結果、手法の向上などの成果はあったものの、特定細胞の蛍光可視化の成功には至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近藤チーム インビボ、インビトロにおいてACとMCの関係がかなり明らかになったことは大きな進展であった。特にMCがACを配列させる様子をインビトロで観察できたことは極めて重要であり、今後の研究の重要な柱となる。例えば、インビトロの系を使い、ACの配列に異常を示すいろいろな突然変異からACを取得し、野生型のMCと組み合わせることで、ACを構成するどの分子がMCとの相互作用に必要かを特製できるし、あるいは、野生型のACと変異魚のMCを組み合わせることで、整列させる細胞側に不具合を生じさせる遺伝子を特定できるはずである。現在、prpというACが正常に配列しない変異のACを使って既に予備データが出ている。インビボに関してはSIB-SEMの3Dデータにより、ACとMCの相互作用の概要が推定できたことが、極めて重要であった。これにより、研究の対象をMCに絞れたことが、研究が予想以上に進んだ原因である。 船山チーム 遺伝子導入法の条件の再検討を行い、導入効率を向上させることは出来たが、目的の細胞種での蛍光タンパク質発現はほとんど検出することが出来なかった。これはカイメン体内に存在する細胞の中でTransport cellsの割合が予想以上に低いためと考えられる。DiIを用い特定の細胞を狙って染色する試みに関しては、数ナノリットルのDiI溶液をカイメン体内の狙った位置に顕微注入出来るシステム構築に成功したが、DiIの染色後、シグナルが細胞膜上から10分程度で失われ、細胞内に顆粒状の蛍光シグナルが生じることから、この手法による細胞形態の蛍光可視化はカイメン細胞に適さないと分かった。これらの結果から、ゲノムへの遺伝子挿入法を確立し、恒常的に蛍光タンパク質などを発現させる手法の確立が必須と確認出来た。 以上のように、チーム内で若干の違いはあるものの、全体としては、おおむね順調に推移していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
近藤チーム 今年度同様に、MCとACの関係にフォーカスして進めていく。今年度は野生型におけるMCとACの位置関係、動態を解析したが、次年度は、主に、変異化株を使ってそれを行うことで、ACの整列に関与する遺伝子を特定していき、あるいは、その遺伝子を改変することで、さらに詳細な原理の解明につなげたい。具体的にはprp変異の解析が中心となる。Prpはコラーゲン9a1c遺伝子の変異であるが、ACの数が減り、さらに平行に整列しないことが解っている。これらについて、インビトロにおける動態観察と、インビボの形態観察を行うことで、MCによるACの整列がどのようにして起きるかを分子レベルで解明していく予定である。また、ACが常にヒレの先端に位置している原因についても解明を進める。既に、ACをパルス的に染色する新しい技術を開発することに成功しており、それを使ってACのインビボんにおける動態を、より詳細に関節することができるはずである。 船山チーム 2019年度に得られた知見を元に、以下に取り組む。1)カワカイメン・ゲノムへの遺伝子導入法の確立、2)Transport cellsで特異的に発現するEflSoxB遺伝子の上流配列(プロモーター領域)の取得、3)一過的な遺伝子発現法を用いた遺伝子機能解析の基礎として、カイメン細胞で、蛍光タンパク質との融合分子を一過的に発現させる。 その他の項目として、棒状構造の操作による形態形成という観点から、それを計算機内で再現する数理モデルをシミュレーションの作成を進める予定である。
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