研究課題
研究代表者はATP依存性のタンパク質分解装置である巨大で複雑なプロテアソーム複合体の構造と機能の解明を目指した研究を包括的に推進、これまでに分子基盤の確立や作動原理などを明らかにしてきた。しかしプロテアソームの生理学や病理学にける役割においては、未解決の課題が山積している。本課題では、プロテアソームの細胞生理学的理解を深めるために、二つの課題 ① プロテアソームの動態や機能を個体レベルで解析するツールの作出とそれらを活用した研究、及び ② プロテアソームの環境ストレス応答に関する研究を推進する。前者は複数の遺伝子改変動物を作出して、個体レベルでのプロテアソームの動態や機能の解析を目指す。具体的にはプロテアソームの量(発現レベル)・局在(コンパートメント)と質(活性レベル)を定量的に可視化(モニター)できるマウスを作出し、個体レベルでのプロテアソームの活動様相の解析を目指す。加えてプロテアソームのパートナーであるユビキチンシステムの質量分析計を駆使した網羅的解析を行い、ユビキチン・プロテアソームシステムの全容解明に挑む。他方、後者では、ヒト培養細胞に様々な細胞内外のストレスを負荷し、これらのストレスに応答して細胞質や核に生じる特殊なプロテアソーム顆粒の形成機構とその生理的意義の解明を目指す。このテーマに関して研究代表者らは、すでに高浸透圧ストレスやアミノ酸飢餓によって生じる核内の微細顆粒(P-Foci)とエネルギー(ATP)枯渇によって生じる細胞質の微細顆粒(PSG)を同定しているが、それらの詳細は不明である。これらを解明することによって、これまでに解析したことのないプロテアソームの基盤研究を推進し、プロテアソームの新しい細胞生理学研究に取り組む。何れの課題も研究代表者らが考案あるいは発見した素材や現象を基軸にした独創的な研究構想である。
1: 当初の計画以上に進展している
第一の課題、プロテアソームの動態や機能を個体において解析するツールの作出と解析については、殆ど計画通りに進捗した。本年度、プロテアソームの発現をモニターできるPSMB2-EGFP-3FLAGKI/KI KIマウスと、活性をモニターできる mCherry-P2A-EGFP-deg Tgマウスの作出に成功した。これらの遺伝子改変マウスを用いたin vivoでのプロテアソームの発現と活性の評価は、マウス組織を透明化後にライトシート顕微鏡を用いたレシオ測定蛍光イメージングによる定量解析を行った。さらに個体レベルでのプロテアソームの働きを調べるために条件的機能減弱マウスも作出し、個体成長の不具合や脳神経系の破綻とそれに関連した行動異常を観察した。第二の課題、プロテアソームに関する環境応答ダイナミズム(ストレス惹起性の顆粒形成応答)の解析については、歴史的な発見に結実させて論文発表に至った(Nature 2020)。特に本年度は、高浸透圧ストレスで形成される核内顆粒(P-Foci)の形成機構とその意義を解明した。哺乳類細胞を高浸透圧刺激(低濃度のショ糖や塩化ナトリウム)に曝すと、核内に僅か数秒から数分で多数のプロテアソーム顆粒(P-Foci)が形成される。この顆粒は融合・円形度・流動性などの解析から、液-液相分離(LLPS)で形成される液滴(メンブレンレスオルガネラ)であること、そしてこの液滴(P-Foci)が核内のタンパク質分解センターとして機能することを証明した。このLLPSは、(4分子以上が連結した)ポリユビキチン鎖とシャトリング(プロテアソームへ分解基質を輸送する)分子RAD23B(UBL-UBAタンパク質)によって駆動されることを世界で初めて明らかにした。この発見は、全く予想外であり、細胞内のタンパク質品質管理機構の研究に新しい概念を導入するものとして国内外で大きな話題となった。
本年度に作出したプロテアソーム発現モニター(PSMB2-EGFP-3FLAGKI/KI)KIマウスの各種臓器からFLAGタグ抗体を利用して、組織中のプロテアソームを精製し臓器特異的にプロテアソームと相互作用する分子群について高感度質量分析装置を駆使して網羅的に同定する。同定した相互作用因子の解析から、プロテアソーム制御における役割を解明する。また研究代表者らが世界に先駆けて開発したユビキチン系の定量プロテオミクス解析、即ちユビキチン鎖の種類(8種類)や分岐鎖(K48-K63鎖)を微量で検出定量できるParallel Reaction Monitoring(PRM)法、ポリユビキチン鎖の新規高親和性プローブ「TR-Tube」、そしてTR-Tubeと定量的な質量分析計を組み合わせた分析からポリユビキチン鎖の長さを測定する「Ub-ProT」法などを活用して、ユビキチンコードとデコードの全貌を明らかにする。一方、プロテアソームとストレス応答に関するテーマでは、ごく最近、アミノ酸飢餓によっても核内にP-Fociが誘導されることを見出したので、その生理学的意義について高浸透圧ストレスで誘導されるプロテアソーム液滴と比較検討する。さらにこれまでに出芽酵母や植物(Arabidopsis)で観察されていたグルコース飢餓(carbon starvation)ストレスによって形成されるサイトゾル顆粒(Proteasome Storage Granules:PSG)が、本年度、ヒト細胞を含む哺乳類細胞でもATP枯渇(2-DG+Azide処理:解糖と呼吸鎖の阻害)によって誘導されることを見出した。そしてこのPSGの形成も、核内P-Fociと同様にポリユビキチン鎖とシャトリング分子RAD23Bが関与した液-液相分離(LLPS)今後、であることの間接的な証拠を得たので、その詳細な機構について解析する。
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