研究課題/領域番号 |
19H00999
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小島 茂明 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (20242175)
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研究分担者 |
藤尾 伸三 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (00242173)
大越 和加 東北大学, 農学研究科, 教授 (20233083)
狩野 泰則 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (20381056)
下村 通誉 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 准教授 (30359476)
藤田 敏彦 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 部長 (70222263)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 海溝 / 海山沈み込み / 底生生物 / 遺伝的分化 / 種分化 |
研究実績の概要 |
深海底における生物進化を支配する主要な要因を3つの時空間スケールで解明することを目的に、学術研究船「白鳳丸」の研究航海の準備として同「新青丸」の航海を8月16日(釧路港)から20日(函館港)に実施した。同航海では、襟裳海山周辺の4点に3台の超音波流速計および環境センサーを取り付けた係留系を設置した。係留系の回収は「白鳳丸」航海でおこなう予定である。また新たに導入した深海用そりネットで良好な近底層生物のサンプルが得られることを確認した。十勝沖の3点で、環境DNAによる底生生物相解析の試験に用いる海底堆積物を採取した。さらに、6点で3mビームトロールによる底生生物採集をおこなった。9月に三陸沖で「新青丸」航海を実施し、深海底生生物を採集した。 東京大学大気海洋研究所や国立科学博物館に保管されている過去の航海の底生生物標本から、日本海溝・千島海溝および周辺海域の標本を選別・整理し、情報をデータベース化する作業を継続した。そうした標本を用いて、節足動物や棘皮動物の新種記載やエゾバイ上科巻貝類の分子系統解析をおこなった。 新型コロナウィルス感染拡大および「白鳳丸」の大規模改修のため、航海が令和4年度に延期されたのを受けて、3月に国内の関係研究者のみ(計31名)で研究集会をオンライン開催した。令和3年度に改めて研究集会を実施するため、東京大学大気海洋研究所に共同利用研究集会を申請し、採択された。令和4年3月にオミクロン株感染拡大とヨーロッパとの時差を考慮し、日中に日本語で公開シンポジウムをオンライン開催(参加者44名)し、夜間に海外関係者も交えた国際研究集会をオンラインでおこなった(参加者50名)。これらの集会を通じて、本研究課題についての情報共有、関連する既往研究の整理、国内の研究者の連携体制や過去のサンプルの有効利用に関する協議をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
5月に予定されていた「新青丸」航海が、新型コロナウィルス感染拡大のため中止となったが、代替航海を8月に、乗船前のPCR検査や乗船地での自己隔離など感染対策を徹底する事で実施することができた。これにより「白鳳丸」航海中に設置・回収をおこなうのに比べて、はるかに長い約2年間の海流データの取得が可能となったほか、深海用そりネットの動作確認や海底堆積物中環境DNAによる底生生物相解析の試験用サンプルを取得することができた。世界的な新型コロナウィルス感染拡大の影響で国際研究集会を翌年度に延期したものの、関連する国内研究者の集会をオンライン開催し、国内の研究者ネットワークの基盤を形成することができた。令和4年3月に延期した国際研究集会をオンライン開催し、本研究課題についての研究者間の連携体制や海外からの乗船が出来ない場合の対応策も含めた研究航海の具体的な実施内容について討議をおこない、関係者の合意を得た。以上の様に令和4年度の「白鳳丸」航海に向けた準備を着実に進めることができた。 過去の航海サンプルの有効利用のための基盤整備も着実に進めてられており、その結果、分類研究が進み、主要動物群の記載が進められた。また、エゾバイ上科巻貝類の網羅的な分子系統解析に関する論文が受理され、本研究課題の対象海域の主要な分類群であるエゾバイ科巻貝類について、より詳細な解析を進めている。また、次世代シークエンサーを用いた小型動物のミトコンドリアDNAの全長配列決定のノウハウを蓄積し、巻貝類や環形動物、小型節足動物のミトゲノム解析を精力的に進めている。こうした研究の成果は、海溝域における集団解析のマーカー選択の幅を広げ、「白鳳丸」航海で得られるサンプルのより効率的な解析に役立つものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、過去に千島海溝および日本海溝の深海域および超深海域で採集され、国立科学博物館、東京大学大気海洋研究所を始めとする多くの研究機関に保管されている標本の情報を整理し、必要に応じて分類学研究者と協力して分類学的な再検討をおこなう。過去の東京大学大気海洋研究所学術研究船「新青丸」の三陸沖航海などで採集され、アルコール固定されているサンプルを用いて、多様な小型無脊椎動物の分類群について、分子系統学および系統地理学的解析をおこなう。日本海溝および千島海溝の底生生物の種組成について、得られた結果をとりまとめ学会発表を行う。紙媒体のみで記録されてきた学術研究船「白鳳丸」「淡青丸」「新青丸」による深海底生生物の採集データを電子化し、公開する準備を開始する。 令和3年7月に予定されている「新青丸」航海で、昨年度に東京大学大気海洋研究所に導入されたビデオカメラシステムを採集機器に取り付け、サンプリングをビデオ撮影することを試みる。良好な結果が得られた場合、「白鳳丸」航海での使用を検討する。また、3月に行われる学術研究船「白鳳丸」の大規模改修後の慣熟航海において、来年度の航海で使用する測器の実地試験をおこなう。同じ場所で4mビームトロール、3mAgassiz型トロール、深海用そりネットによる深海生物採集をおこない、結果を比較することで、令和4年度に予定されている「白鳳丸」における採集機器の選択に役立つ情報を取得する。また、サンプリング状況のビデオ映像を解析し、深海生物を効率的に採集するための作業手順を確立し、限られたシップタイムを最大限に有効活用できる様な採集機器のオペレーションマニュアルを作成する。 令和4年秋に予定されている「白鳳丸」による千島海溝・日本海溝研究航海にむけて、海外研究者も含む関係者間の連絡を活性化させ、準備を着実に進めていく。
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