研究課題/領域番号 |
19H01001
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
工藤 洋 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (10291569)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヒストン修飾 / H3K27me3 / 長期環境応答 / エピジェネティクス / ハクサンハタザオ |
研究実績の概要 |
本研究では、植物のエピゲノムの季節変化に着目し、特に遺伝子の発現制御に重要な役割を持つと考えられるヒストン修飾を解析することにより、長期環境応答の実態と機能を明らかにすることを目的としている。本年度は、兵庫県中部にあるハクサンハタザオの自然集団で実施しているChIP-SeqとRNA-Seqの野外時系列解析を続行し、特に、長期のRNA-Seqデータを分析することで、数週間以上の応答性をもつ遺伝子を抽出して、ヒストン修飾による調節の介在の有無を明らかにした。特に、葉寿命とウイルス耐性に着目した解析を実施した。葉寿命の解析では、夏と冬の間に大きな差があることが明らかとなった。野外操作実験の結果、夏に展開した葉は自己被陰による光合成の低下が、冬に展開した葉では繁殖器官への転流が寿命の決定要因となることを明らかにした。取得したRNA-Seqデータを解析し、この現象と季節プライミングとの関係を解析中である。ウイルス耐性に関しては、導入したクロロフィル蛍光測定器を用いた解析を実施し、冬季に光合成機能が低下することと、季節依存的にウイルス感染が光合成に影響することを示した。さらに、ハクサンハタザオの標高勾配に沿った遺伝的変異を対象とした解析を行い、標高適応と季節プライミングとの関係を解析した。その結果、温度馴化能力が標高によって異なるが、開花時期にはその差異が小さくなることを見出した。開花を制御する鍵遺伝子FLC において、H3K27me3が介在するラチェット制御を発見したことに基づいて、そのしくみをモデリングにより評価した結果を論文にまとめた。また、H3K27me3がゲノムワイドに季節応答を担うことを明らかにし、論文にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
開花を制御する鍵遺伝子FLC において、H3K27me3がアンチセンスRNAのプロモーターを抑制するというしくみをモデリングにより評価した結果を論文にまとめ公表した。さらに、これについて、季節的には一方向にしか発現が遷移しないラチェットとして機能し得るとして、その新規機能について先行研究からの知見との関係を整理した総説を発表した。葉寿命の解析では、夏と冬の間に大きな差があることが明らかとなり、この現象と季節プライミングとの関係を解析中である。また、ウイルス感染の光合成機能・凍結耐性に対する効果が季節に依存して変化することが明らかとなった。さらに、H3K27me3介在型プロモーターの解析を本格化した。これは、ハクサンハタザオの時系列エピゲノム解析により発見したものである。当該プロモーターをレポーター遺伝子につないで形質転換実験を行い、温度変化の長期傾向に応答して発現する性質をレポーター遺伝子に付与したものが得られた。当該プロモーターは温度変化の長期傾向に応答して発現する性質を遺伝子に付与することを確かめ、これを用いた変異体スクリーニングを開始した。プロモーター領域におけるH3K27me3変化による遺伝子発現調節は植物ではいまだ報告がなく、新たな発見である。また、H3K27me3がゲノムワイドに季節応答を担うことを明らかにしたことは、新規の発見として非常に高く評価され、Nature Plants誌に論文を公表した。
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今後の研究の推進方策 |
ヒストン修飾を介して病虫害に対する誘導防御が、被害が少なくなる冬季にシャットダウンされる新規機構が存在することが強く示唆される結果を得ているのでで、さらに解析を進める。葉の寿命の季節型の発見についても、ヒストン修飾が関与するかどうかについての解析を加えていく。また、標高適応におけるヒストン修飾の機能も評価する。H3K27me3介在プロモーターについては、特に温度応答がFLCとは逆であることに着目して研究を進める。さらに、高次元のクロマチン構造における制御を捕捉するために、ハクサンハタザオにおけるHiC法の確立を目指す。
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