研究課題
以前より当研究室では主としてマカクザルの中部頚髄(C4/C5髄節)における側索背側部切断による脊髄部分損傷モデルにおける機能回復機構の研究を行ってきた。この場合は手指の巧緻運動は良く回復する。そして、このモデルにおいて、高γ帯域の運動関連活動が損傷直後に大きく増加することを報告しており、この増加が、運動指令と運動の結果とのフィードバックを示す予測誤差であるという仮説を立てており、その機能を明らかにすることを本研究課題の目的とした。令和元年度、より損傷範囲の大きな亜半切モデルのサルを作成することにしたが、症状が重篤であり、側索背側部切断モデルとは回復経過がかなり異なることが分かった。令和2年度は、側索背側部切断モデルでにおいて、両側運動前野、一次運動野、一次体性感覚野の活動をECoG電極を用いて縦断的に記録したところ、損傷同側の運動前野において、運動開始時における低周波数帯域(α-β)及び高周波数帯域(高γ)の活動の増加を認めた。この運動中の同側運動野の活動に対する反対側運動前野からの入力の効果を知るためにウィルスベクター2重感染法とDREADD法を組み合わせて、反対側運動前野から同側運動前野に至る交連線維を可逆的に遮断することを試みた。すると、脊髄損傷前は、この交連線維の遮断によって同側運動前野における運動時の低周波数帯域と高周波数帯域はいずれも増大した。このことは交連線維が抑制的に働いていたことを示唆するが、脊髄損傷後は逆に減弱した。このことは損傷前は抑制性であった半球間の相互作用が損傷後は興奮性に転じたことを示している。すなわち、損傷後、運動時の高γ帯域の運動関連活動が損傷反対側運動前野から損傷同側運動前野に伝えられ、同側運動前野の運動への関与を促進していることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍によって一時研究の推進が困難な時期はあったが、背側側索損傷モデルサルにおける1頭分のデータを取りきることができ、当初想定された通りの結果を得ることができた。
今後2頭目のデータも取得し、予測誤差信号が脊髄損傷からの回復過程において果たす役割を研究期間内に明確に示せるものと考えている。
すべて 2021 2020 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (4件)
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