研究課題/領域番号 |
19H01017
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
加藤 晃一 名古屋市立大学, 大学院薬学研究科, 教授 (20211849)
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研究分担者 |
矢木 真穂 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 助教 (40608999)
谷中 冴子 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 助教 (80722777)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 抗体 / 動的立体構造 / 相互作用 / Fc受容体 / 補体 |
研究実績の概要 |
免疫グロブリンG(IgG)の3次元構造ダイナミクスを原子レベルで解析するために、これまで技術基盤を整えてきたNMR分光計測実験と分子動力学(MD)シミュレーションを本格的に実施した。特に本年度は、抗体医薬のフレームワークとなるヒトIgG1のFc領域を対象に、細胞工学的手法により糖鎖とアミノ酸の生合成経路を改変した動物細胞を用いて、フコシル化やガラクトシル化をふくむN型糖鎖構造をコントロールしつつ、効率的に均一安定同位体標識を施した一連の試料を調製した。多次元NMR計測により、Fcの各グライコフォームについて糖鎖とポリペプチド鎖に由来するシグナルの観測・帰属を推進した。帰属の確定したNMRシグナルをプローブとして、糖鎖構造の改変に伴う分子の動的構造変化を捉えた。一方、ヒトIgG1-Fcの各グライコフォームを対象にMDシミュレーションを実施した。分子構造が柔軟な糖鎖をモデル分子として、MDシミュレーションの結果により得られた構造アンサンブルを包括的に取り扱うアプローチ法を確立した。これによりNMRデータとMDシミュレーションの結果を統合し、Fcの分子構造中の糖鎖-タンパク質の相互作用ネットワークをとらえる基盤を構築することができた。さらに、水素-重水素交換質量分析法により、Fab中に存在するFcγ受容体IIIの結合部位が抗原認識に伴って構造変化をきたし、それによりIgGの受容体親和性が向上することが明らかとなった。また、IgGのFabの中にはFcγ受容体のみならず、補体系第一成分C1qに対する相互作用部位も隠されていることを明らかにした。 こうして得られた情報に基づいてエフェクター分子との結合能を向上させるための分子設計戦略を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画立案時には想定していなかったIgG分子中に隠された補体系第一成分に対する相互作用部位に関する知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、IgGを対象に、これまでに確立した実験計測手法を総合的に応用するとともに、計算科学的アプローチを駆使して抗体分子の柔構造中における機能部位の連関を解明する。得られた情報をもとに分子改変を実施し、IgGの分子機能を高度化する。NMR計測においては、高度な安定同位体標識法を駆使してアミノ酸残基側鎖の信号観測と帰属を行い、これをプローブとして分子動態の探索を行う。こうして抽出した分子構造のミクロ情報と溶液散乱や高速原子間力顕微鏡などを利用して得た分子構造のマクロ情報を統合して、IgGの分子構造のダイナミクスを多角的な観点から評価する。さらに、分子動力学シミュレーションによって得られたコンフォメーション空間の探査法を洗練させ、実験データとあわせて解釈することで分子内に張り巡らされたアロステリックネットワークを読み解く。これにより、分子に与えた摂動が分子構造動態に及ぼす影響を予測し、これを実験的に検証することを通じて抗体の分子改変を効率的に行うための指針を得る。分子改変にあたっては、Fc領域に結合している糖鎖とアミノ酸残基とのダイナミックな相互作用を考慮しつつ、分子内に隠されたエフェクター分子との相互作用部位を炙り出し、それらを活用した高機能分子の設計と創成をはかる。さらに、血清成分が抗体のエフェクター機能に及ぼす影響も精査する。こうして得られた知見を総合して、抗体分子の柔構造中における機能部位の連関を最適化し、免疫系における抗体の機能向上を実現する。
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