研究課題/領域番号 |
19H01020
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
渡邊 直樹 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (80303816)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | メカノトランスダクション / ブラウンラチェット / 力覚センサー / 細胞運動 / 単分子イメージング / アクチン流動 / 超解像顕微鏡 / 接着斑 |
研究実績の概要 |
生体は様々な物理ストレスに曝される。本研究では、細胞にかかる力学作用と生体構造の変換制御の関わりを解明することを目標に、eSiMS単分子イメージング法および超解像顕微鏡IRISという独自の細胞内分子可視化技術を発展させ、制御のしくみを直接可視化し解明することを目指す。初年度は、先導端に形成される細胞の舵取り装置、ラメリポディア(葉状仮足)におけるアクチン重合のセンサー的な役割について成果を報告した。可動性基質(PDMS)上で培養した細胞を用い、外部からの牽引力をかけたところ、仮足の先端でのみアクチン線維伸長が亢進することを見出した。アクチンは速い重合端を細胞辺縁部では外向きに配向しており、重合力で細胞膜を押し出すことが、ブラウンラチェットモデルによって長年にわたり説明されてきた。この発見に基づきわれわれは、このアクチン伸長端のブラウンラチェット機構が力の「発生」のみならず、力の「感知」にも役立つ新機軸を提唱した。引き続き、外部からの牽引力や圧縮力に表層の細胞骨格系がどのように制御されるのか、検討を進める予定である。また、既存の超解像顕微鏡を超えた忠実な描写と無制限の多重染色を実現したIRISについては、個々の分子に対する検出プローブの開発のため、解離速度の速いモノクローナル抗体をハイスループットでスクリーニングする系を樹立しつつある。得られたIRISプローブを利用し、生体にあるアクチン構造解析への応用も試みている。また、細胞は、外部環境の力学的性質を接着分子を介し感知し、移動・増殖・分化するが、この力の伝播や役割を解明するために接着分子の動態とアクチン線維流動とをeSiMSによって高精細に比較することで、細胞内構造の流動と接着分子系との接点におけるずり応力に関する新知見を複数得つつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度末の2月後半頃からCovid-19の影響で実験機器(特に光学系)・一部試薬の納入時期が不安定となる状況に陥り、6月頃までその影響を受けた。そのため、19年度末に一部研究費を翌年度に繰り越すとともに、遠隔会議によるミーティングを主とした活動に制限するなどの必要が生じ、研究の進捗に少なからぬ影響があった。しかし、その後はほぼ通常どおりに研究活動を行うことができた。研究実績の項で詳述した細胞先導端のアクチン重合端がもたらすブラウンラチェット型メカノセンサーを明かにした論文を発表したことに加え、接着依存性細胞増殖シグナルの逆説的な活性化を引き起こすがん治療用キナーゼ阻害薬の潜在的副作用の新知見、およびIRIS用プローブのモノクローナル抗体をベースとした迅速製造法についての成果を論文にまとめ投稿中である。光学機器の機器選定や一部の試薬の納入について、部品不足や輸送上の問題のため余分な時間がかかるといった制限が残されているものの、研究活動の大筋については平常に近いペースで行えるようになっており、初年度のついてはほぼ予定どおり、研究が進捗できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、可動性基質(PDMS)上の細胞に外部からの牽引力を加える手法を樹立することで、細胞先導端に形成されるラメリポディア先端のアクチンが「重合センサー」をして働くことを報告したが、この実験系を発展させ、細胞基質の変型度合い・向き・周期の影響や、フォルミンファミリーによるアクチン重合核形成に対する影響、接着分子の動態にどのような影響を与えるのかについて検証を進める。進捗次第では、上皮や血管内皮細胞などを用いた観察系を採りいれることも考慮する。加えて、われわれが2017年に報告した赤外蛍光一分子観察も応用することで、立体的な培養系の深部における単分子イメージングにも取り組む予定である。これらとは別に、アクチン流動に引きずられた接着斑に通常局在する接着分子が同じ速度で流動する現象を捉えつつある。また、接着斑周囲でアクチン線維の配向変化を可視化することにも成功しており、それら細胞構造どうしが接触する部位における力学的な制御のしくみを捉え、機序の解明を進める。われわれの定量的なデータを元に、国際共同研究で取り組んでいる数理モデルとの比較も行う予定である。超解像顕微鏡IRISについては、多種の細胞構造の可視化に向けた条件検討、プローブ開発を進めている。プローブの改良や新規のプローブ開発について、成果報告の準備を進めるとともに、力学作用の細胞構造への影響の解明を目指す本研究への応用にも取り組む。
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