研究課題/領域番号 |
19H01024
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
樗木 俊聡 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (50233200)
|
研究分担者 |
村川 泰裕 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (50765469)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ミクログリア / 活性化エンハンサー / CAGE法 / NET-CAGE法 / ライフステージ |
研究実績の概要 |
ミクログリアは脳のマクロファージであり、長寿命で自己複製能に優れ、生涯にわたって細胞数を保っている。ミクログリアは、若齢期健常脳においては脳の恒常性維持に積極的に貢献しているが、加齢に伴い炎症形質に変化して脳機能低下の一因となる。しかしながら、加齢に伴うミクログリアの当該機能変容の分子基盤は不明である。本研究では、ライフステージ 1 週齢、8 週齢及び 1 歳齢のマウス脳からミクログリアを採取し、CAGE 法(Cap Analysis Gene Expression 法)を用いて、同細胞の加齢に伴う遺伝子発現の変動を解析した。その結果、加齢に伴い、489 個の遺伝子発現レベルが 1/2 以下に低下し、逆に 717個の遺伝子の発現量が 2 倍以上に増加していた。前者には細胞周期・分化・増殖に関連するものが多区含まれ、一方、後者にはIFN誘導遺伝子が多く含まれており、それら遺伝子群はミクログリアの機能変容に関わることが推測された。さらに転写制御を担うエンハンサーの活性化を高塩基解像度で計測可能なnative elongating transcript-CAGE 法(NET-CAGE 法)を用いて活性化エンハンサー領域の変化を網羅的に解析した。その結果、各週齢のマウスにおいて特徴的に発現する遺伝子群や活性化エンハンサー領域が同定され、同細胞の性状や機能が各ライフステージにおいてダイナミックに変化していることが明らかになった。重要な知見として、FANTOM5 を含む既存の公開データベースには含まれず、ミクログリアで活性化する新規エンハンサー領域 36,320 領域を同定した。この中には、ライフステージの進行とは無関係に生涯を通じて常に高い活性化を示すエンハンサー領域も含まれており、これら領域はミクログリアのアイデンティティ維持に重要な転写制御を担うと考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画は概ね順調に進んだ。一方、今回解析に用いた 1歳齢マウスはヒトの40歳代に相当し、特に活性化エンハンサーの加齢に伴う変動レベルが必ずしも大きくない=老化個体の表現型が十分に現れていない印象であった。現在、より老化表現型が顕著になる1.5歳齢及び 2歳齢のマウス(各々ヒトの 60歳代、80歳代に相当)のミクログリアを解析中であり、真に老化した個体におけるミクログリア活性化エンハンサーの同定が期待される。また、同定されるエンハンサーの標的遺伝子解析を行うために必要になる技術 HI-C法による予備検討も開始した。以上の経緯により、研究計画は概ね順調に進行していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、現在行っている1.5歳齢及び 2歳齢のマウスミクログリアのCAGE解析及びNTE-CAGE解析結果を、これまでに得られた1 週齢、8 週齢及び 1 歳齢のマウスミクログリアの解析結果と合わせて統合的に比較検討することによって、老化に伴い変動する遺伝子群、エンハンサー領域を明らかにする。また、Hi-C法を用いて、活性化ランキングが上位のエンハンサーがどのコード領域を調節しっているかを予測し、実際にその遺伝子発現が誘導されているかを CAGE解析結果と照合する。さらに、それらの過程を経て明らかになった情報に基づき、老化特異的に変動するエンハンサー領域のKOマウスの作成を開始する予定である。
|