研究課題
同一の遺伝子変異を有するクローンから構成される細胞集団であっても、がん幹細胞をコアとするエピゲノム多様性が存在することから、悪性化メカニズムの解明にはがん幹細胞の維持および悪性化に関わるエピゲノム制御機構の解明が重要と考えられる。1)幹細胞制御にはWntシグナルが重要であり、Wntシグナル制御に関わる長鎖ノンコーディング(lnc)RNAの同定とその機能解析を進めた。具体的にはβカテニンにより直接誘導されるlncRNAのなかからヒト大腸がんで発現亢進する遺伝子として同定した。当該lncRNAはβカテニンの標的遺伝子のなかでもLGR5やSP5を含む特定の遺伝子群のエンハンサー領域のクロマチン活性化に関与することを見出した。同定されたlncRNAはヒト大腸がんのみならず、βカテニン変異を有する肝細胞がんにおいても高値を示しており、治療標的としても有望と考えられた。2)抗がん剤治療に対して増殖を停止した状態で腫瘍細胞が残存することが知られている。イリノテカン活性代謝物であるSN-38処理により大腸がんオルガノイドは増殖停止し、再増殖させた直後にはLGR5陽性細胞が多数出現することをみいだした。それらはKi-67陽性細胞が増えるとともに減少する。細胞分裂を停止した細胞が再増殖開始する際の一細胞トランスクリプトーム解析により、停止状態から細胞周期にエントリーするにあたって活性化される遺伝子群を同定した。
2: おおむね順調に進展している
Wntシグナル制御に関わる長鎖ノンコーディングRNAとして同定していた遺伝子の機能解析が順調に進んだ。抗がん剤処理によって分裂停止した状態から再び細胞周期にエントリーする際に活性化される遺伝子群について、一細胞RNA解析によって精密な時系列を推測できた。
βカテニンおよびlncRNAによって制御される遺伝子群に含まれる転写因子について、クロマチン結合領域の同定やエピゲノム修飾などの解析を進める。細胞分裂停止状態から再増殖するプロセスの解明を継続する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 6件) 備考 (1件)
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