同一の遺伝子変異を有する細胞から構成されるクローナルな細胞集団であっても、がん幹細胞をコアとするエピゲノム多様性が存在することから、悪性化メカニズムの解明にはがん幹細胞あるいは薬剤耐性細胞の維持および細胞分化に関わるエピゲノム制御機構の解明が重要と考えられる。 1)幹細胞複製に重要なWntシグナルの制御に関わる長鎖ノンコーディング(lnc)RNAの同定とその機能解析を継続した。ヒト大腸がんで発現亢進する遺伝子として同定したlncRNAは大腸がんのみならず、βカテニン変異を有する肝細胞がんや肝芽腫おいても高値を示しており、WNTシグナルによる増殖を維持するために重要な因子と考えられた。ナノポアロングリード解析を用いた全長転写産物の同定および核内局在の解析に着手した。さらに肝芽腫のオミックス解析により、Wntシグナルの持続的亢進はβカテニンの標的遺伝子であるncRNAおよびASCL2発現を維持し、自己複製が盛んな肝芽細胞集団から肝芽腫が発生すると考えられた。 2)抗がん剤治療に対して増殖を停止した状態で腫瘍細胞が残存することが知られる。抗がん剤処理により、大腸がんオルガノイドが増殖停止、再増殖開始するモデルを用いて、増殖停止期にある細胞集団に着目して一細胞トランスクリプトームに加えてATAC解析を実施した。活性化されているエンハンサー領域を解析し、活性化されている転写因子としてTP53を含む候補因子が絞り込まれた。
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