研究課題/領域番号 |
19H01032
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 洋人 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 准教授 (60446549)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 免疫ゲノミクス / 腫瘍免疫 / 硫酸化糖鎖 |
研究実績の概要 |
以下2項目の研究計画を進めた。 (1)液性腫瘍免疫に着目したシングルセルレベルでの免疫ゲノム解析 液性腫瘍免疫の本態解明を目的として、様々な臨床がん試料に対するシングルセル・トランスクリプトーム解析および腫瘍浸潤B細胞に対するシングルセル・レパトア解析を進めた。継続的にデータ取得を進めるとともに、前年度までの成果によって樹立された方法論に基づいて、B細胞の成熟過程や分化過程等のプロファイリング、がん特異的免疫グロブリンの特定などの詳細な解析を進めた。がん組織に浸潤するB細胞が発現する免疫グロブリンの配列情報の中から、がん治療抗体としての可能性を有する機能性ヒト抗体を単離・開発するため、同定されたがん特異的免疫グロブリンをライブラリ化して機能解析を進めた。また、がん組織で特にクローナリティの高い免疫グロブリン・クローンなどについては、タンパク抗原や糖鎖抗原など多角的側面からの抗原探索を進めた。 (2)抗硫酸化糖鎖抗体の抗原構造の探索と意義の研究 がん環境では抗硫酸化糖鎖抗体を発現するB細胞クローンが高頻度に存在し、がん細胞特異的な硫酸化糖鎖構造ががん抗原として存在する可能性が示されているが、がん特異的な硫酸化糖鎖構造とその意義については未だ明らかでない。本年度は、様々な程度に硫酸基修飾を施した硫酸化糖鎖ライブラリを用いた結合性のスクリーニング等を洗練化するとともに、がん特異的な抗硫酸化糖鎖抗体が認識する硫酸化糖鎖がん抗原の構造的特性を詳細に探索した。前年度までに樹立された方法論によって、ヒトがん組織がから単離した抗硫酸化糖鎖ヒト抗体を用いた免疫組織化学的検討を大規模に進め、ヒトがん環境における硫酸化糖鎖がん抗原の分布や病理学的意義について継続的に検討した。また分子生物学的・細胞生物学的実験等によって、がん細胞における特異的硫酸化糖鎖の意義の探索を続けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に沿った研究を進めることができており、当初の計画通りに概ね順調に進展している。 具体的には、臨床がん試料を用いて液性腫瘍免疫に注目したシングルセル・トランスクリプトーム解析とシングルセル・レパトア解析を進めており、腫瘍環境を構成する細胞群のシングルセルレベルでの詳細な解析を順調に行なっている。特に、膨大な数の腫瘍浸潤B細胞に関する可変領域完全長レパトア配列情報を構築できており、今後の研究計画の大きな基盤が出来上がったといえる。併せて解析パイプラインの洗練化も進んでおり、液性腫瘍免疫の分子メカニズムに関する解析を始めている。免疫ゲノム解析から明らかになった機能性ヒト抗体の候補を探索し、それらの機能スクリーニングを開始している。重要と思われる代表的な免疫グロブリンクローンについては、タンパク抗原あるいは糖鎖抗原の探索などを進め、興味深い知見を得ている。さらに、さまざまな硫酸基修飾を有する硫酸化糖鎖ライブラリを用いたELISA等のスクリーニングを大規模に進めており、がん特異的な抗硫酸化糖鎖ヒト抗体がどのような構造の糖鎖を認識しているかについての探索を順調に進めている。また、ヒトがん組織に対する免疫染色や細胞生物学的実験等によって、がんにおける硫酸化糖鎖抗原の意義の探索を進めている。いずれも興味深い知見が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
以下の2項目の研究計画を進める。 (1)液性腫瘍免疫に着目したシングルセル免疫ゲノム解析 前年度までの成果を基盤として、液性腫瘍免疫の本態解明を目指して多様な臨床がん試料に対するシングルセル・トランスクリプトーム解析および腫瘍浸潤B細胞のシングルセル・レパトア解析を継続的に進める。これまでに洗練化されたバイオインフォマティクス・パイプラインをさらに充実させ、重鎖・軽鎖ペアの正確な確定、B細胞の親和性成熟過程や分化過程などのプロファイリング、がん特異的免疫グロブリンの特定などの解析を加速的に進める。できる限り多くの症例を対象に、高精細なデータ取得を進める。がん浸潤B細胞の免疫グロブリン配列情報を基盤としてがん治療抗体としての応用可能性を有するヒト抗体を単離・開発することを最終的な目的として、免疫レパトア解析で同定されたがん特異的免疫グロブリンの詳細な機能解析を遂行し、治療抗体候補を探索する。また、重要と思われる抗体クローンについては、多角的側面からの抗原探索を進めるとともにそれらの意義の解析を続けることで、液性腫瘍免疫の分子メカニズムに迫る。 (2)抗硫酸化糖鎖ヒト抗体の抗原構造の探索と意義の探索 前年度までの成果によって、がん細胞特異的な硫酸化糖鎖構造ががん抗原として存在する可能性とその意義の一端を明らかにすることができた。硫酸化糖鎖にはへパラン硫酸など多種多様な長鎖構造物が包含されるが、今後は、本研究によって見出されつつあるがん特異的な硫酸化糖鎖構造とその病理学的意義について、さらに詳細な分子メカニズムを掘り下げる。抗硫酸化糖鎖ヒト抗体を用いたヒトがん組織に対する免疫染色なども拡張して進め、ヒトがんにおける硫酸化糖鎖がん抗原の分布や意義を解明したい。また、特異的硫酸化糖鎖抗体を生み出す腫瘍免疫の分子メカニズムにも多角的側面から迫りたい。
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