研究実績の概要 |
がんの発生や悪性化プロセスにおける幹細胞特性・未分化形質(ステムネス)の獲得は重要な生物学的特徴と言える。本研究では、発がんに寄与する代謝経路やメタボライトの特定、治療抵抗性とステムネスを制御する代謝経路の特定を目標とした。 まず、食餌による代謝変動と造血器腫瘍の関連を探るため、高脂肪食により変動する生じる代謝物の探索を実施した。予め設定した化合物を測定するTargeted metabolome に加え、変動するイオンピークを探索し、その後化合物を特定するUntargeted metabolomeを実施した。高脂肪食によって変動する代謝物の中では、トリプトファン代謝およびコレステロール代謝の変動が認められた。これらの経路の中から、質量分析にて変動が確認された化合物について、高脂肪食あるいは白血病モデルマウスへの投与を行い、機能評価を開始した。次年度も引き続き検討を行うことで、造血器腫瘍の原因や悪性化、さらには、予防、治療に寄与する化合物を同定する予定としている。次に、白血病分化制御の解明の目的で、KEGGなどを参考に、すべての代謝経路に関わる代謝酵素および代謝物の輸送に関わるトランスポーター分子など、約3,000分子を網羅した独自のCRISPR/CAS9ライブラリーを作製した。急性骨髄性白血病細胞株に導入後、分化誘導形質を示す細胞を分取し、次世代シークエンサーにより解析にて、分化誘導を惹起するsgRNAと同定した。その結果、選択された分子の中に、鉄代謝に関連した酵素が数多く同定され、鉄代謝と白血病分化に密接な関連があることが判明した。今後、その他の候補分子の機能解析を行うことによって、新規分子の特定、白血病治療薬への応用を目指した研究を推進する予定としている。その他、患者由来脳腫瘍におけるアミノ酸経路の役割解析を進め、治療抵抗性とステムネスを制御する代謝経路の特定を進めた。
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