研究課題/領域番号 |
19H01038
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
長谷川 功 新潟大学, 医歯学系, 教授 (60282620)
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研究分担者 |
飯島 淳彦 新潟大学, 自然科学系, 教授 (00377186)
松尾 健 東京医療保健大学, 医療保健学部, 講師 (10733941)
足立 雄哉 新潟大学, 医歯学系, 助教 (40625646)
鈴木 隆文 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳情報通信融合研究室, 室長 (50302659)
中原 潔 高知工科大学, 情報学群, 教授 (50372363)
南本 敬史 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 脳機能イメージング研究部, グループリーダー(定常) (50506813)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 心の理論 / 言語 / マカクザル / 皮質脳波 |
研究実績の概要 |
(1)心の理論検証の決め手となる誤信念認知の責任脳回路同定、(2)心の理論を操る駆け引きに関わる脳回路の種間相同性検証、(3)文字/文字様記号の認知を担う脳回路の種間相同性検証、という3つの下位目標を立て、項目ごとにマカクザルとヒトを対象とした実験を並行して進めた。 (1)では、予期的眼球運動パラダイムの導入により、健常なマカクザルの自発眼球運動が他者の誤った信念にもとづく行動を予期する方向に偏り、誤信念の認知がサルにも可能であること、さらにDREADDsによる内側前頭前野の不活性化によりこの偏りがなくなることを示す知見を得た。得られた結果を学会発表(Akikawa et al Neuro2019; Akikawa et al SFN 2019)および論文発表(Hayashi et al Cell Reports 2020)した。 (2)では、相手の正直度と利害関係に依存して正しい合図と嘘の合図を使い分けながら 駆け引きをさせる独自の社会認知課題を開発し、ヒトを対象とした行動実験・fMRIと、2頭のマカクザルを対象とした行動実験を開始した。 (3)では、同じ要素が組合せ次第で異なる意味を表すような二要素記号を用意し、9種類のイラストの内容を主語様、動詞様、目的語様の3つのクラスの二要素記号の組み合わせとして表す課題を開発し、1頭のマカクザルがこの課題を学習できることを見出した。またヒトを対象として、連続提示した文字列を文節や文に連結させながら自分のペースで読ませる課題を開発して行動実験とfMRIをおこない、未連結の文字数・文節数に依存的に増減する左下前頭皮質の賦活を明らかにし、学会発表した(Kasedo et al Neuro2019)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 誤信念認知の責任脳回路同定、(2) 心の理論を操る駆け引き課題の開発による脳回路の種間相同性検証、(3) 文字/文字様記号の認知を担う脳回路の種間相同性検証、という3つの研究項目のうち、 (1)ではDREADDs分子イメージングと組織学的手法による発現部位の確認が遅延したため研究期間を延長したが、誤信念の認知が正常なサルに可能であること、およびDREADDsによる内側前頭前野の不活性化によりこの偏りがなくなることを明らかにし、得られた結果を学会発表(Akikawa et al Neuro2019; SFN 2019)および論文発表(Hayashi et al Cell Reports 2020)するなど、概ね順調に進展した。 (2)では相手との利害関係に依存した駆け引きをおこなうオリジナルの課題を開発し、ヒトを対象とした行動実験/fMRIを開始した。2頭のマカクザルを対象とした行動実験も開始したところまでは順調だったが、訓練中の被験個体が立て続けに不慮の体調不良により安楽死せざるを得ない状況が発生し、計画が遅延した。 (3)では、主語・動詞・目的語様の二文字記号の学習パラダイムを開発し、1頭のニホンザルに学習させることに成功した。またヒトを対象として1文字ずつ連続提示して文節、文に連結させる課題を用いて、未連結の文字数・文節数に相関して漸増する下前頭皮質の賦活を見出し、学会発表した(Kasedo et al Neuro2019)。 以上より、全体としては概ね順調に進展したと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 誤信念認知の責任脳回路同定、(2) 心の理論を操る駆け引きに関わる脳回路の種間相同性検証、(3) 文字/文字様記号の認知を担う脳回路の種間相同性検証、という3つの研究項目ごとに、引き続きマカクザルを対象とした行動実験・電気生理実験とヒトを対象とした行動実験・fMRIを並行して進める。2020年度には、 (1)前年度までに、他者の誤った信念の認知に関わるサルの脳回路のハブとして内側前頭皮質の因果的役割が示唆された。内側前頭皮質と特異的に結合する脳部位を特定するため、DREADDsの分子イメージングを進める。 (2)前年度に開始した行動実験のデータから、駆け引き課題を実行中のヒト被験者の行動を説明する計算論的行動モデルを作成するとともに、ヒト被験者を対象としたfMRIデータの予備的解析を行う。また、不慮の体調不良により安楽死させた二頭の代わりに、新たに二頭のサルを対象として行動実験を開始する。fMRIの解析結果にもとづきサルの電極留置部位を検討する。 (3)まず1頭目のサルに刺激として提示した9種類のイラストを動画に置き換えて、動画の内容を主語、動詞、目的語様の記号の組み合わせとして表す課題を訓練する。次に初めて見る動画の内容でも単語様記号の組合せとして表せるかの行動学的検証を行う。またこの個体の下側頭皮質と前頭皮質に柔軟にフィットする皮質脳波電極の設計をおこなう。2頭目の個体でも行動課題の訓練を開始する。またヒトの1文字連続提示課題を用いた行動実験の結果をまとめ、fMRI実験のデータ解析を進める。
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