研究課題/領域番号 |
19H01047
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
金 吉晴 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所, 所長 (60225117)
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研究分担者 |
栗山 健一 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部, 部長 (00415580)
堀 弘明 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 行動医学研究部, 室長 (10554397)
関口 敦 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 行動医学研究部, 室長 (50547289)
喜田 聡 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (80301547)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 海馬 / 恐怖記憶 / PTSD / メマンチン / トランスクリプトーム / 睡眠 |
研究実績の概要 |
光遺伝学的手法による恐怖条件づけ文脈記憶想起時の海馬の恐怖記憶エングラム不活性化により恐怖記憶が減弱することが明らかとなり、この恐怖記憶減弱には、CREB不活性化による再固定化の阻害が関係することが示唆された。恐怖記憶想起後の海馬のトランスクリプトーム解析を進め、再固定化時には多様な遺伝子の発現が変動するのに対して、消去誘導後にはこれらの発現変動が観察されなくなることが明らかとなった。PTSD治療におけるメマンチンの有用性をオープン臨床試験により検討した結果、顕著な症状改善効果が見出され、論文で発表した。病態研究については、分担者・喜田グループと連携し、PTSD患者の血液とモデルマウスの海馬のトランスクリプトームを統合した解析を行い、恐怖記憶に関連して患者とマウスで共通に発現変動を示す遺伝子を同定した。不眠、悪夢障害を有するPTSD患者の睡眠生理指標を、病院における終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査、もしくは在宅における携帯型脳波計、アプノモニター、携帯型筋電計、行動量計を用いた検査により収集した。さらにPTSDの治療前後でこれを実施し、治療効果に関連する睡眠生理指標を評価した。FMRIについてはメマンチン投与前後の縦断データ7例を対象に予備的に解析を行った。閾値下ではあるが右海馬体積の減少、右海馬~前帯状皮質及び島皮質の回路の増強が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス海馬の恐怖記憶エングラムの介入操作が可能となり恐怖記憶想起後の海馬のトランスクリプトームの解析が進んだ。PTSDに対するメマンチンのオープン臨床試験において、有望な結果が得られた。患者とマウスで共通に発現変動を示す重要な遺伝子を同定した。睡眠と脳画像研究はコロナ禍で患者の来院で困難であったためやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
マウスにおける恐怖記憶想起後の海馬のトランスクリプトームの解析結果について、ヒトのPTSD患者のトランスクリプトーム解析結果と比較し、相同性を示す発現変動を示す遺伝子群の同定を進めて、マウスの恐怖記憶課題を用いて恐怖記憶制御に対するその遺伝子群の役割の解明を進める。メマンチンのオープン臨床試験により得られた結果をもとに、PTSD治療における有効性・安全性を検証するためのRCTを計画している。また、メマンチン投与前後での遺伝子発現プロファイルや内分泌・炎症系マーカーの変化を検討することで、メマンチンの効果メカニズムを調べる。さらに、PTSD患者とモデルマウスのトランスクリプトーム解析で見出された遺伝子について、DNAメチル化解析やバイオインフォマティクス解析を行う。COVID-19感染制御に慣れが生じるとともに、社会活動を回復する気運が高まる中で、徐々に病院機能や診療・研究体制が回復しつつある。このため、補充した在宅検査用機器を十分に活用し、研究の遅れをとりもどすよう努める。研究助成期間終了後も研究を継続し、当初の目標を達成する予定である。COVID19の感染拡大が落ち着き次第、健常群への介入実験を予定している。頭頂葉への経頭蓋脳刺激介入として、10名程度の健常被験者に対してパイロット研究を行い、介入前後にMRIにより安静時脳活動を計測し、刺激により誘導されたシナプス可塑性の個人差を評価する。海馬を基軸としたPolysynapticな回路が刺激され、PTSD患者で異常が指摘されている海馬を基軸とした脳機能結合の変化を誘導することができると考えている。
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