研究課題
本研究の目的は、「神経堤細胞-マクロファージ-内皮細胞連環」を中心に、冠循環発生における多細胞系譜間相互作用の役割の解明、多細胞連携に基づいた脊椎動物における冠循環の進化に関する仮説の提示、発生学的知見に基づく新しい治療法創出基盤の形成を実現することである。本年度は、心臓内神経堤細胞とマクロファージのマルチオーム解析、マウス胚と鳥類胚による発生学的実験、脊椎動物における冠血管比較、マウス心筋梗塞モデル実験などを実施し、以下の結果を得た。①心臓内神経堤細胞は骨軟骨前駆細胞様の段階を経て、骨軟骨分化と共通および神経堤特有の転写制御ネットワークによって、平滑筋や弁間質細胞など多様な系譜に分化する。②神経堤細胞除去によりリンパ管形成とマクロファージ分布に変化をきたす。③胎生期心臓内マクロファージは多様な転写プロファイルを示し、心筋梗塞巣のマクロファージ多様性と類似する。④マウス胎生期冠動脈起始部は、大動脈心外膜下脈管網(ASV)と心室側血管網の接合部に生じる大動脈への複数チャネルから、Sema3E-PlexinD1シグナル依存性のリモデリングによって形成される。⑤ASVの起始部と走行は魚類と両生類の冠動脈と類似し、両者の相同関係が示唆される。⑥ASVと心大血管腹側のリンパ管、咽頭領域のリンパ管網は二次心臓領域に由来する。⑦マウス心筋梗塞部位ではマクロファージなどの血球系細胞の増加、血管及びリンパ管新生に加えて神経堤由来細胞の増加が見られる。以上の成果は、心臓血管系を発生・進化・病態の3つの視点から複合的に捉える新たな理解に貢献するとともに、心疾患の病態の理解と新規治療法開発にもつながる知見であり、さらに次年度以降の研究計画の基盤を充実させるものである。
2: おおむね順調に進展している
①冠循環系の発生:神経堤細胞の単一細胞トランスクリプトーム解析、先進ゲノム支援による10xVisiumによる空間的トランスクリプトーム解析により、心臓内神経堤細胞分化系譜について予想以上に研究が進んだ。さらに、神経堤細胞除去実験によりマクロファージやリンパ管との関係が示唆されたことに加え、ASVの細胞起源と冠動脈形成シグナルの同定なども進み、一部論文発表、投稿準備中である。現在Sema3Eコンディショナルノックアウトマウス作成、神経堤細胞株O9-1と血管及びリンパ管内皮細胞株との共培養による細胞間相互作用の解析へと研究が新たに展開している。②冠循環系の進化:ASVの起始部と走行は魚類と両生類の冠動脈と類似し、両者の相同関係が示唆され、比較解剖学的解析を進めている。③冠循環系の病態と再生:マウス冠動脈結紮モデルにより、Sema3E-PlexD1シグナルの阻害がマウスの冠動脈結紮モデルにおいて梗塞後の反応性リンパ管新生を促進し、心機能も改善させることを論文発表した。また、マウス心筋梗塞部位ではマクロファージなどの血球系細胞の増加、血管及びリンパ管新生に加えて神経堤由来細胞が増加することを明らかにした。以上の成果は、心臓血管系を発生・進化・病態の3つの視点から複合的に捉える新たな理解に貢献するとともに、心疾患の病態の理解と新規治療法開発にもつながる知見であり、期待通りに研究が進展したと評価できる。
①冠循環系の発生:(a)単一細胞解析などによって推定された心臓内神経堤細胞分化系譜について現在論文投稿準備中であり、その知見をもとに、マウス胚、鳥類胚や神経堤細胞株O9-1などを用いて多様な細胞分化を制御する細胞間シグナルと転写因子ネットワークを明らかにしていく。 (b)マクロファージと神経堤細胞の分布相関や相互作用の可能性について得られた情報から、新たな細胞間連携の解明へと発展させる。(c)ASVとリンパ管内皮細胞の起源について論文化するとともに、冠動脈起始部形成についてSema3E-PlexinD1によるシグナルの責任細胞とその相互作用の機序を明らかにするため、系譜特異的Cre発現マウスによるコンディショナルノックアウトを進める。②冠循環系の進化:両生類と魚類、特に軟骨魚類と硬骨魚類にわたる幅広い比較解剖研究によって冠循環発生の解析を進め、冠循環の進化について仮説を提示する。③冠循環系の病態と再生: 神経堤やマクロファージを標識するCreマウスを用いて梗塞病変部位へ分布や亜集団の存在を調べ、これらの細胞群の病態形成への影響とその細胞運命を検討する。
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