研究課題/領域番号 |
19H01049
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
内田 信一 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (50262184)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | protein kinase A / AQP water channel / AKAP / 尿崩症 / 結合阻害薬 / 褐色脂肪細胞 |
研究実績の概要 |
腎臓集合管におけるバゾプレシンV2受容体(V2R)の機能喪失型変異により発症する先天性腎性尿崩症の新規治療戦略として、protein kinase A(PKA)とPKAのアンカータンパク(AKAP)との結合阻害に着目したところ、障害されたV2Rを介さずに、尿からの水再吸収に必須であるPKA/AQP2水チャネルシグナルを直接活性化し、尿崩症モデルマウスの尿量を減少させることに成功した(Nature Commun 2016, 2018)。細胞内には数十種類のAKAPが存在し、それぞれがPKAの時空間的活性制御に関わるが、どのAKAPが尿濃縮に最も関わるかは知られていない。本研究では、我々が独自に保有するAKAP-PKA結合阻害剤を出発点として、まずその詳細な作用機序を明らかにすることで新たなPKAの制御機構を解明し、同時に従来のGPCRアゴニストやホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬などのPKA活性化剤を、効力と特異性で凌駕する治療薬を創出できる可能性を探る。 腎臓におけるAKAP-PKAを標的にしたPKAシグナルの解析手法は、他臓器においても応用が可能である。例えば、褐色脂肪細胞においてはcAMP/PKAシグナルはuncoupling protein-1 (UCP1) の活性化を担い、肥満やインスリン抵抗性の治療標的として知られている。我々の化合物を用いることで、尿崩症以外のPKAが関与する多様な疾患においても新たな病態の解明を進め、治療戦略(薬)を提示する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腎臓集合管のPKA機能を解析することで、今までにない強力なAQP2制御機能を有するAKAP Xを同定することができた。AKAP Xをノックアウトしたマウスは尿濃縮障害をきたし多尿となることから、このマウスを解析すれば今後、新たな尿濃縮機構の分子メカニズムが解明できると考えられる。先天性腎性尿崩症に有効な尿濃縮薬を開発するためには、さらに強力なPKA活性化剤の作成を進める必要があり、リード化合物であるFMP-API-1/27の誘導体展開と類似構造を指標としたin silicoのスクリーニングを行った。その結果、腎臓集合管培養細胞でバゾプレシンと同等のPKA/AQP2活性化効果を持つ化合物Xや、マウスへの経口投与により尿量減少効果を発揮する化合物Yの開発に成功した。 褐色脂肪細胞においては、培養細胞を用いてPKA活性化効果が高い化合物をスクリーニングした。FMP-API-1/27と構造が類似する化合物Zは、腎臓集合管ではPKA活性化効果が無かったが、褐色脂肪培養細胞のPKA基質(HSL, Perilipin, CREBなど)をリン酸化した。化合物Zを高脂肪食に混ぜて投与すると、抗肥満効果が得られ、褐色脂肪の特定のPKA基質の発現量とリン酸化に変化をもたらしていることが明らかとなった。 上記の通り、PKA制御機構の解明やPKA活性化薬の開発に進展があり、研究計画通り概ね順調に進められている。
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今後の研究の推進方策 |
腎臓集合管においては、AKAP-PKA機能の生体内での役割とその病態への関与について順調に解明が進んでいる。褐色脂肪においても、今後生体内で変化している肥満病態に直結するPKA基質を同定し、AKAPとの関連を明らかにする。腎臓や褐色脂肪以外にもPKAが関与する疾患の解析を並行して進める。薬剤の有効性においては、引き続きそれぞれの病態モデルマウスを用いて検証し、非臨床での有効性のエビデンスを構築していく。
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