研究課題
難治性消化器癌のサブタイプ多様性とがん幹細胞多様性の解明に基づく先端的治療開発を目的として、(1)難治性がんサブタイプの多重ゲノム編集解析と治療開発、(2)がん幹細胞の生体内治療抵抗性因子を標的とした治療開発の二課題で構成する。先端的治療開発に加え、多施設臨床検体データを用いて前向き検証するシステムを備えている。がん多様性解明と臨床検体検証を基盤として、難治性消化器癌治療へ展開する実践的課題である。予後不良な変異サブタイプであるARID1A変異胆管癌をゲノム編集によって解析した。ヒト胆管癌細胞のARID1Aを欠失させた結果、遊走能、浸潤能、スフェア形成能、幹細胞性遺伝子シグネチャーが有意に亢進し、特にALDH1A1発現とALDH活性(Aldefluor)の上昇を認めた。クロマチン免疫沈降法(ChIP)解析により、ARID1Aがヒストン脱アセチル化酵素HDAC1と共にALDH1A1遺伝子のプロモーター領域にリクルートされ、ヒストンH3の27番目リジン(H3K27)アセチル化を抑制しALDH1A1発現を負に制御することを見出した。臨床検体解析の結果、胆管癌のARID1AとALDH1A1の発現は逆相関し(P=0.018)、ARID1A陰性/ALDH1A1陽性症例の予後は有意に不良であった(P=0.002)。本研究により、ARID1A変異胆管癌はヒストンH3K27アセチル化によりALDH1A1発現が活性化し、がん幹細胞性を獲得することが明らかとなった(Yoshino, Tanaka, et al. Carcinogenesis, in press)。さらに、予後不良な免疫抵抗性肝癌、代謝異常肝癌、転移性膵癌、スキルス胃癌、マイクロサテライト不安定性胃癌などを多重ゲノム編集およびRNA編集によって作成し、がん幹細胞性を制御する新規治療開発を進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
各癌腫の予後不良サブタイプを多重ゲノム編集およびRNA編集によってヒトおよびマウスで作成しており、正常免疫下における腫瘍免疫状態と分子相互作用を詳細に解析することが可能となった。その結果、癌幹細胞性を制御する遺伝子変異群には、造腫瘍性獲得に必要な変異だけでなく、免疫抵抗性獲得に必要な特異的変異が存在する可能性を見出し、免疫不全マウスを用いたPDX(patient-derived xenograft)モデルの弱点が示唆される成果を得ている。さらに、本研究によって新たに癌特異的抗原を見出し、新規キメラ抗原受容体chimeric antigen receptor T細胞(CAR-T)療法の作成も進めており、当初の計画以上に進展している。
多重ゲノム編集(CRISPR/Cas9)およびRNA編集(CRISPR/Cas13)により各種がんパネルを正常免疫モデルで構築して、免疫抵抗性肝癌、代謝異常肝癌、転移性膵癌、スキルス胃癌、マイクロサテライト不安定性胃癌などのオルガノイドと同系統免疫細胞(CD8+ T細胞, Treg細胞など)の相互作用をin vitro解析し、免疫抵抗性獲得メカニズム解明に基いて新規治療標的の同定を進める。既に、癌細胞性維持に必要な免疫ニッチ複合体を形成する分子機序や、腫瘍免疫を回避する複数の分子メカニズム、ヒストン修飾制御に伴う抗腫瘍免疫作用などを見出しており、難治性がん特異的CAR-T療法を加えた新たな複合免疫療法の開発を推進する。
分子腫瘍医学研究室ホームページhttp://www.tmd.ac.jp/grad/monc/
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