研究課題
難治性消化器癌のサブタイプ多様性とがん幹細胞多様性の解明に基づく先端的治療開発を目的として、(1)難治性がんサブタイプの多重ゲノム編集解析と治療開発、(2)がん幹細胞の生体内治療抵抗性因子を標的とした治療開発の二課題で構成する。先端的治療開発に加え、多施設臨床検体データを用いて前向き検証するシステムを備えている。がん多様性解明と臨床検体検証を基盤として、難治性消化器癌治療へ展開する実践的課題である。本研究により開発した多重ゲノム編集技術を用いてβ-catenin exon 3スキッピングを導入し、フレームシフトによる恒常活性型β-catenin変異肝癌細胞株をヒトおよびマウスでそれぞれ作成した。その結果、GSK-3βリン酸化部位欠損β-catenin蛋白の核内移行およびLGR5, RNF43, AXIN2などの遺伝子発現亢進を認めた。β-catenin変異肝癌細胞を用いた同系統マウス移植腫瘍モデルではCD3, CD8 T細胞の腫瘍内浸潤が低下し、オルガノイド免疫モデルではT細胞による殺細胞効果の抑制を認めた。ヒトおよびマウスβ-catenin変異肝癌細胞で共通して抑制さされるサイトカインを見出し、β-catenin変異肝癌の臨床検体でも発現低下することを確認した(Akasu, Tanaka, et al. manuscript under revision)。さらに、癌幹細胞性サブタイプの候補遺伝子をin vivo免疫応答下網羅的CRISPRスクリーニング法によって抽出した結果、造腫瘍性だけではなく免疫抵抗性の獲得に必要な特異的遺伝子が存在することが明らかとなった。この新しい知見に基づいて、正常免疫下でも高度な造腫瘍性を呈する免疫抵抗性肝癌株、スキルス胃癌株の作成に成功した。現在、免疫チェックポイント阻害剤と併用する標的分子の同定によって新規複合免疫療法の開発を進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究で開発した高効率ゲノム編集技術の応用により、2つの研究課題が同時に進められている。1つは肝癌、胆管癌、膵癌、胃癌等の予後不良サブタイプを多重ゲノム編集およびRNA編集によってヒトおよびマウスで再現し、免疫応答モデルによる腫瘍免疫状態と分子相互作用を詳細に解析することが可能となったことである(研究課題Ⅰ)。現在、CasRx/Cas13dを用いたRNA編集を用いて癌遺伝子変異を特異的にノックダウンするシステムを構築し、変異を正常化して腫瘍免疫の変化を解析している。免疫応答モデルでは同系統マウス移植腫瘍によるin vivo解析に加えて、多重ゲノム編集・RNA編集細胞を用いたオルガノイドを作成し、同系統免疫細胞との相互作用をin vitro解析する手法を開発した。オルガノイド免疫モデルにより、サイトカインのみならず代謝系の腫瘍免疫作用の解明を進めている。もう1つは、高効率ゲノム編集ライブラリー・システムを構築したことである(研究課題Ⅱ)。その結果、正常免疫下におけるin vivo網羅的CRISPRスクリーニング法の開発によって、造腫瘍性獲得に必要な変異とは異なる免疫抵抗性獲得に必要な変異が特異的に存在することを見出し、新たな癌化メカニズムを明らかにしている。現在、免疫応答下の高脂肪食負荷モデルを用いたin vivo網羅的CRISPRスクリーニング法により、NASH肝癌において造腫瘍性および免疫抵抗性を亢進させる新たな遺伝子群のスクリーニングに成功している。最近、NASH肝癌が免疫チェックポイント阻害剤に抵抗性を示すことが報告されており(Pfister et al. Nature 2021)、そのメカニズム解明が急務となっている。本研究による新規システムで同定したNASH肝癌遺伝子群の解析によって、免疫抵抗性機序を明らかにする方針であり、当初の計画以上に進展している。
本研究で開発した高効率ゲノム編集技術の応用により、2つの研究課題をさらに推進する。研究課題Ⅰでは多重ゲノム編集により作成した免疫抵抗性肝癌株、スキルス胃癌株、転移性膵癌に加えて、CasRx/Cas13d- RNA編集により癌遺伝子正常化を導入した肝癌を解析する。同系統マウス移植腫瘍モデルによるin vivo解析とオルガノイド免疫モデルによるin vitro解析を進める。オルガノイド免疫モデルを用いて、サイトカイン、アミノ酸や脂肪代謝による腫瘍免疫作用の変化を明らかにして、新規治療を開発する。難治性がん特異的CAR-T療法の開発を始めており、分子標的治療と免疫治療を併用した新たな複合免疫療法の開発を推進する。研究課題Ⅱではin vivo網羅的CRISPRスクリーニング法によって、正常免疫下でも高度な造腫瘍性を呈する免疫抵抗性肝癌株、スキルス胃癌株の作成に成功しており、免疫チェックポイント阻害剤と併用する標的分子の同定によって、新規複合免疫療法の開発を進める。さらに、NASH肝癌において造腫瘍性および免疫抵抗性を亢進させる新たな遺伝子群のスクリーニングに成功しており、NASH肝癌が免疫チェックポイント阻害剤に抵抗性を示すメカニズムを解明し、近年増加しているNASH肝癌に対する新たな治療開発を推進する。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 11件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件) 備考 (2件)
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