研究課題
抗腫瘍免疫機構における多彩なT細胞応答が解明される一方で、B細胞応答の詳細は解明されていない。我々は、ミエロイド系の表現型を示しPD-L1/L2を発現したB細胞(B-1細胞)およびペプチド抗原に応答する抗炎症サイトカインIL-10/TGF-βを産生するregulatory B細胞(Breg細胞)が、T細胞のアロ免疫応答を巧妙に抑制していることを解明した。この発見は、専ら拒絶反応を促進すると考えられていたB細胞の中に、アロ抗原特異的にT細胞を抑制し拒絶を回避させる抑制性B細胞サブセットが存在することを意味する。本研究では、この移植免疫領域のパラダイムシフトが、癌関連ペプチド抗原や糖鎖抗原を標的とする腫瘍免疫機構に該当するか否かを解明し、その制御法を開発する。これまでに、癌糖鎖抗原を認識するB-1細胞を介した抗ネオアンチゲン免疫回避機構を解析するマウスモデルとして、OT-I-CMAHノックアウトマウス、OT-II-CMAHノックアウトマウス、OT-I-Galノックアウトマウス、OT-II Galノックアウトマウスの作製を行った。また、Gal糖鎖抗原発現大腸がん細胞株(CMT93)にネオアンチゲンとしてOVAタンパクを遺伝子導入することで標的消化器癌細胞を作製し得た。これらのモデルを用いて腫瘍細胞の腹腔内移入によるB細胞の抗原提示細胞機能と抗腫瘍T細胞応答性について解析を行った。臨床解析では、肝細胞癌における糖鎖抗原(NeuGC)の発現と血清中の抗NeuGC抗体値が予後と深く関連することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、癌糖鎖抗原を認識するB-1細胞を介した抗ネオアンチゲン免疫回避機構の研究に必要なマウスモデルの作製を計画通り進めた。標的糖鎖抗原(NeuGCまたはGal)発現とネオアンチゲンとしてOVAを共発現した癌細胞株を選択するにあたり、大腸がん細胞株の糖鎖抗原表出は確認できたが、OVA抗原の同時表出は遺伝子導入による発現誘導が必要であった。遺伝子導入機器の購入によって癌細胞株へのOVA表出を得る事が確認できた。これらのモデルによる機能解析を継続中である。臨床解析は、成果報告(論文投稿)に向けた準備をすすめている。研究計画に沿って順調に進展している。
Breg細胞によるHLA由来の抗原ペプチドに対するT細胞の制御機構は、癌ネオアンチゲン由来の抗原ペプチドに対する免疫回避機構にも共通する可能性がある。 この仮説に一致して、癌細胞由来のTRAPに表出するHMGB1がB細胞のTLR2を活性化し(TLR2-MyD88-NF-kB signal pathway)、IL-10を産生するBreg 細胞へ分化することが最近報告された。我々はHMGB1に強く結合する免疫抑制性オリゴ核酸がB細胞応答にも影響することを報告しているが、本研究では、オリゴ核酸によりBreg細胞への分化を抑制し、ネオアンチゲン由来の抗原ペプチドに対する特異的な免疫回避機構を解除し得るか否かを以下のような実験系で解明する。癌細胞由来のtumor cells-released autophagosomes (TRAP)に表出するHMGB1がB細胞のTLR2を活性化し(TLR2-MyD88-NF-kB signal pathway)、IL-10を産生するBreg 細胞へ分化し、ネオアンチゲンに反応するCD4+T細胞とCD8+T細胞を抑制するものと考えられる。抗腫瘍免疫応答におけるHMGB1 の生理的役割について詳細を明らかにするため、B細胞において HMGB1 を欠損させたHmgb1 conditional knockoutマウスに、OVA遺伝子移入したマウス大腸癌や肝癌腫瘍株の移入後の抗OVA-CD4+T細胞とCD8+T細胞応答を解析する。HMGB1 の機能を抑制する新規のデコイオリゴ核酸がBreg細胞の誘導を抑制し、抗OVA-CD4+/CD8+T細胞応答が亢進して、移入した大腸癌や肝癌腫瘍の発育が抑制されるか否かを解析する。
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