がんや糖尿病などに伴う神経系の障害により,モルヒネにも抵抗性を示す神経障害性疼痛が発症する。特に,触刺激で誘発される激烈な痛み(アロディニア)の治療は困難で,多くの患者が苦しんでいる。しかし,「なぜ触覚が痛覚に誤変換されてしまうのか」という根源的な問いは未解明である。そこで本研究では,代表者らが最近独自開発した技術(新規アロディニア評価法,神経サブセット特異的機能制御法)を駆使し,アロディニアに直結する脊髄後角内神経回路とその動作異常を特定し,触から痛への転換メカニズムを解明することを目的とする。また,その解明に向けて脊髄後角における神経-グリア相互作用と,脳から脊髄後角へのトップダウン神経シグナルにも注目して研究を進める。 本年度(~2019年6月)は,事前検討において可視化に成功しているニューロペプチドYプロモーター陽性神経サブセット(NPY+神経)を解析対象とし,tdTomatoで可視化した同神経の脊髄後角内分布や細胞種解析を行った。脊髄後角の各層別マーカーを利用した組織学的解析から,NPY+神経が脊髄後角の第II層外側部に局在することを明らかにした。さらに,事前検討より,NPY+神経は抑制性介在神経である可能性を掴んでいたため,電気生理学および免疫組織学的解析により詳細に検討した。その結果,約9割以上のNPY+神経が脱分極刺激でtonicタイプの活動電位を発生させ,抑制性介在神経マーカーのPAX2と共局在を示した。以上の結果より,NPY+神経は脊髄後角第II層外側部に局在する抑制性介在神経であることが明らかになった。
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