研究課題/領域番号 |
19H01066
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
高橋 政代 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 客員主管研究員 (80252443)
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研究分担者 |
砂川 玄志郎 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (70710250)
万代 道子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 副プロジェクトリーダー (80263086)
Tu HungYa 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (10780835)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 休眠 / 冬眠 / 日内休眠 / 組織保存法 / 網膜シート / 低温耐性 / 低代謝耐性 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
本課題では、マウスが有する能動的低代謝の制御機構を明らかにし、試験管内で低代謝を再構成することで同原理を証明し、最終的にヒト網膜組織を用いて能動的低代謝による組織保存法の実現性を探る。1年目の2019年度は研究に必要な基盤技術・実験手法の確立を主に進めた。 マウスES細胞を用いた代謝測定経路を立ち上げ、複数のマウス系統のES細胞で安定的に代謝フラックスを計測できるようになった。また、培地分析装置を導入し、培地中の糖・乳酸・電解質を計測できる系を整備した。また低温時の遺伝子発現から低温耐性の重要分子を同定するために、休眠表現型の異なるマウス由来のES細胞を温度を変えて培養しトランスクリプトームを取得した。 休眠マウスの臓器サンプリングを行い、遺伝子発現を観察する予定であったが、絶食性休眠によって休眠を誘導すると休眠期間が数時間しかなく、安定したサンプリングを行うことが困難であったため、休眠をより安定して誘導できる系を開発した。具体的にはマウスの視床下部のQRFP陽性神経を興奮させることで、数日間に渡ってマウスの代謝を低下させることに成功した(QIH; Q neuron-induced hypometabolism)。本手法ではマウスの体温セットポイントも低下しており、冬眠マウスモデルを作成したと言える。今後のマウスを使った休眠研究を大きく前進させた快挙である。 休眠状態のマウスの視床下部1細胞トランスクリプトームを行うためには成体マウスの脳をシングルセル化する必要がある。2019年度は成体脳から細胞化するための、試薬や酵素処理時間などの条件検討を行い、1細胞化できる目処をつけた。さらに、シングルセル化した細胞をソートし、神経細胞を効率よく分離できるているかの検証を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度はインビトロ冬眠系を構築するための環境整備に従事した。実際にインビトロ系で休眠誘導を誘導するにいたらなかったが、フラックスアナライザーによるマウスES細胞の安定した代謝測定や、培地評価システムの導入、低温培養における網羅的遺伝子発現解析は実施できた。 休眠動物からの複数臓器サンプリングは2019年度は心臓のサンプリングのみに終わっている。これは、新たな休眠誘導法であるQIHの開発をすすめたからであり、QIHにより今後は飛躍的に安定的に臓器のサンプリングが可能となった。また、非侵襲体温測定のためにサーモグラフィーカメラの系を導入した。 視床下部の1細胞化が難航し、2019年度に予定していたサンプリングは施行できなかったが、1細胞化が安定してできることが本実験の大前提なので引き続き成体脳の1細胞化をすすめていきたい。 ヒトiPS細胞から網膜組織を誘導できる系は安定的に運用されており、実験は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
インビトロ冬眠系の構築に関しては、ES細胞の低温培養から推察される低温耐性システムを明らかにする。2019年度に獲得した培養温度別のトランスクリプトーム解析の結果と合わせて、培養温度が異なるときのES細胞の解糖系・ミトコンドリア系の代謝経路の評価を行い、低温耐性の分子機構を明らかにし、論文にまとめる予定である。また、休眠動物から取得した血清・髄液でインビトロで細胞の代謝を変化させられるか検討する。 休眠マウスの多臓器サンプリングについては、心臓以外に、肝臓、腎臓、脳のサンプリング並びにトランスクリプトーム解析を行う予定である。正常と休眠の2条件の比較ではなく、強制的な低代謝である全身麻酔も比較対象に含める。 視床下部1細胞トランスクリプトームは、成体脳の1細胞化が安定的に可能となったらすすめる。1細胞化が困難な場合は、1核トランスクリプトームも候補にいれる。 インビトロ冬眠系の糸口がつかめている場合は、ヒトiPS細胞由来の網膜シートで代謝を制御できるか検討する。
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