研究課題/領域番号 |
19H01070
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
石丸 直澄 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 教授 (60314879)
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研究分担者 |
新垣 理恵子 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 准教授 (00193061)
工藤 保誠 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 教授 (50314753)
常松 貴明 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 助教 (70726752)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自己免疫 / 臓器間コミュニケーション / 標的臓器 / T細胞 / 制御性因子 / シェーグレン症候群 |
研究実績の概要 |
我々の身体は、全身の臓器同士がコミュニケーションをとることで恒常性が保たれていることが近年に明らかにされ、臓器間ネットワークを介在する物質は、各臓器細胞が産生する様々な因子が報告されている。自己免疫疾患の病態において、標的臓器と他の全身臓器との間でどのようなコミュニケーションが取られているのかは不明な点が多い。本研究の目的は、シェーグレン症候群をはじめとした疾患モデルあるいは患者サンプルを用いて、病態の過程で標的臓器と他臓器とのやりとりの実態を最新のプロテオミクス解析、網羅的遺伝子解析、分子生物学的・病理学的・免疫学的研究手法により解明することにより、新たな恒常性維持機構、自己免疫疾患の新たな発症機序を明らかにするとともに、臓器間コミュニケーションを応用した自己免疫疾患をはじめする免疫難病への新たな臨床応用研究を目指している。 本年度は、前年度までに明らかにされてきたシェーグレン症候群モデルマウスにおける肝臓でのSOSシグナル分子として、Fibrinogen-like protein-1 (FGL-1)を同定し、病態との相関を確認するとともに、シェーグレン症候群疾患モデルマウスをバックグランドとするFGL-1遺伝子ノックアウトマウスを作成し、免疫学的および病理学的解析を進めた。また、FGL-1の受容体として知られるT細胞表面上のLAG3の発現ならびにそのシグナルカスケードに関する分子機序の解明を進めた。その中で、LAG3とFGL-1の結合そのものはLAG3を介したつよいT細胞シグナルになるのではなく、MCH分子との結合の重要性が明らかになった。一方で、シェーグレン症候群のモデルマウスの肺病変におけるケモカインおよびその受容体の発現バランスの役割を明らかにした。さらに、T細胞の抑制シグナル分子であるPDL-1を介した新たな自己免疫疾患の治療法に関する研究で大きな成果があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度までに進めてきたシェーグレン症候群モデルマウスにおける肝臓でのSOSシグナル候補の中で、Fibrinogen-like protein-1 (FGL-1)に着目した。FGL-1は制御性T細胞の活性化に関与していることが知られており、疾患モデルの制御性T細胞を介した免疫制御機構の破綻につながるメカニズムの解明につながる可能性を有している。FGL-1分子とその受容体であるLAG3との結合が明らかにされたが、その詳細なシグナル分子機構は知られていなかったが、本研究の成果としてLAG3とFGL-1の結合よりもMHC分子との結合がよりT細胞シグナルに関与していることが明らかになった(Immunity 2022)。また、シェーグレン症候群のモデルマウスの肺病変ではB細胞の活性化ならびに遊走に関与するケモカインネットワークの制御不全が病態形成に重要であることがわかった(投稿準備中)。さらに、T細胞の抑制シグナルを応用したPD-1とCD80を介した新たな治療法の開発に関する研究では、シェーグレン症候群疾患モデルなどを用いて新たな治療戦略を提案した(Nat Immunol 2022)。加えて、シェーグレン症候群の標的臓器である唾液腺細胞でのケモカイン発現と加齢との関係を明らかにした(Inflammation 2022)。一方で多角的な研究により様々な共同研究を進めた。その中で、唾液を用いたプロテオミクス解析による脂肪酸の存在とシェーグレン症候群の病態との相関関係が明らかになっており、今後重要な研究の一つとなることが予想される。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度までにシェーグレン症候群を中心として疾患モデルの肝臓、肺、唾液腺、血液、唾液、腸管細菌など網羅的に解析することによって、自己免疫疾患の発症における標的臓器と全身の多臓器とのコミュニケーションの実態を探る取り組みを進めてきた。肝臓におけるSOS分子として制御性T細胞の活性化に関与する分子、肺ではB細胞を活性化する分子、さらに唾液中には短鎖脂肪酸など新たな因子を同定してきた。さらに、T細胞の抑制シグナルを応用した自己免疫疾患の新たな治療法開発にも注力してきた。 今後はこれまでに同定された分子群の各臓器での発現制御機構の解明、自己免疫疾患発症との詳細な関連性の解明を目指し、疾患モデルを中心に多角的な研究を進める予定である。さらに、シェーグレン患者の組織サンプルなどを用いて、マウスモデルで見出された現象および機序を比較することによって、臨床応用の可能性に関して検討を進める予定である。 今後、臓器間コミュニケーション関連因子の発現細胞とその機能解析、分子機序に加え臨床応用に向けた展開を目指している。また、シェーグレン症候群に加え、関節リウマチ、I型糖尿病、間質性肺炎など他の自己免疫疾患との関連性に関しても、疾患モデルあるいは臨床サンプルを用いて検討を加える予定である。 臓器間コミュニケーションによって免疫システムの恒常性が維持されている分子機序の解明によって、自己免疫疾患だけでなく感染症、アレルギー疾患、癌免疫など様々な疾患の理解につながるものと想定される。
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