(1)脳の自発活動と代謝 睡眠中の2-3ヶ月児の自発的な神経活動に関わる脳波(EEG)と自発的な脳組織血液の酸素化動態に関わる機能的近赤外分光法(fNIRS)のデータの分析を進めた。fNIRS信号の自発的変化に関して、脳領域間の同期性は動睡眠で強く、静睡眠で非同期的であった。ヘモグロビンの酸素化動態(hPod)は睡眠ステートに影響を受けにくかった。また、静睡眠のEEGに紡錘波(スピンドル)が周期的に現れ、酸素化ヘモグロビンの減少とリンクしていた。この現象より、静睡眠中には、脳活動の抑制が脳領域間で非同期的に生じていることが示唆された。
(2) 腸内細菌と脳の相互作用 昨年度取得した腸内細菌叢の組成データよりその特徴量を算出した。脳活動データについては、睡眠ステートに分類した上で、EEGの紡錘波やクロス周波数結合、fNIRSによる機能的結合やhPood等の特徴量を算出した。これらの間の関係性を探った。
(3) 腸内細菌の発達に関する縦断研究 4名の乳児において、糞便の採取を繰り返し行った(生後6日から583日までの間に、81回から149回採取)。16SrRNAメタゲノム解析によって遺伝子配列を決定する手法により、個人内での腸内細菌叢の動態情報を得た。3ヶ月未満でのデータを多数含む2名において、新生児期に優勢であったブドウ球菌属は3ヶ月ごろまでに激減した。また、ビフィズス菌が出生後増加し、3ヶ月前後にピークがあった後に減少した。このことは、脳の機能的ネットワークの発達が急激に起きる時期と一致していることを示している。さらに、4名すべてにおいて、6ヶ月以降に細菌叢の多様性が劇的に増えた。これらのデータには、週・月の時間スケールでの動的な変化の情報が含まれており、今後、細菌種間の相互作用などの推定や脳の発達の特定の事象に関するタイミングとの関連を調べるのに有用であると考えられた。
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