研究課題/領域番号 |
19H01088
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
金子 文成 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任准教授 (00344200)
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研究分担者 |
川上 途行 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (80424133)
新藤 恵一郎 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 特任准教授 (70338177)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 視覚誘導性自己運動錯覚 / 痙縮 / リハビリテーション科学 / 理学療法 / 脳機能 |
研究実績の概要 |
本研究の核心的問いは,「補足運動野や運動前野など高次運動関連領野から脊髄までを含んだ神経回路における機能的変化の結果として痙縮が低減するのではないか」というものである。この核心的問いに帰結するため,段階的かつ包括的研究を行ない,複数の仮説について結論を得ることを目的として研究を進めている。2019年度の研究実績について,概要は以下である。 1. 人工像を運動させる映像を用いた視覚刺激によって引き起す運動錯覚(KINVIS)を治療に応用するKINVIS療法を行なっている最中に,経頭蓋磁気刺激を行ない,KiNvis療法で駆動される脳神経回路を機能的に強化することを試みた。 2. 脳卒中後6カ月以上を経過した慢性期にある片麻痺患者を対象に,介入試験を行なった。KiNvis療法群と対照群とを比較した。痙縮の臨床的指標には,MAS (modified ashworth scale)を用いた。その結果,KiNvis療法群では特異的にMASで評価された痙縮が低減していることが示された。このことから,本研究においては,あらためてKiNvis療法前後で変化を生じる脳神経回路に対する介入を実施することの有効性が確認された。 3. 痙縮の定量評価について:オリジナルデバイスを作成し,関節運動により生じる抵抗をトルクとして計測することを試みた。手関節および足関節運動を他動的に行ない,その時の抵抗で発生するトルクを計測した。速度依存的変化,および関節角度依存的変化について解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は脊髄反射機構に関する生理学的効果の探索研究,および患者を対象とした介入研究を予定していたが,完全には終了しておらず進行はやや遅れているといえる。2019年度に検証することを想定していた仮説は以下の二つであった。 仮説1:KiNvis療法は,脳卒中片麻痺の痙縮を低減する(専用装置で定量的に評価する)。その機序として,錯覚する運動の主動作筋を支配する脊髄神経回路に対して促通性効果,そして拮抗筋神経回路に対しては抑制性の効果と相反する影響を同時に及ぼす。 仮説2:KiNvis療法で低減する痙縮は,末梢と上位中枢からの脊髄運動ニューロンプール(脊髄MN)への入力が収束した結果としての,シナプス前抑制の効果による。 上記の仮説を検証するための必須計測方法として,痙縮の評価がある。2019年度はそのシステムの精度検証部分で時間を要した。また,臨床試験を実施するための倫理申請手続にも予想を超えて時間を要したために,全体的な進行が遅れたと分析している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、KINVIS療法最中の生理学的状況について,健常成人を対象とした実験および脳卒中後の片麻痺患者を対象とした臨床試験を実施して,そこで得られたデータを解析する。また,その前後の影響について慢性期脳卒中重度片麻痺患者について解析する。fMRIによる脳機能結合解析についても,本研究でも継続する。 すでに有する臨床試験データのうち,機能的磁気共鳴画像法による評価結果を解析したところ,左右大脳半球の頭頂間溝間での組み合わせ,損傷半球の頭頂間溝周辺と運動前野あるいは前頭棘とが結合される組み合わせなど,いくつか標的とするべき脳部位が絞り込まれてきている。それらのデータを元に,効率的に介入試験を実施することで仮説を検証していく。
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備考 |
金子文成, 榊聡子, 松井一人, 松田淳子, 山本理恵子, 内山靖: これからの理学療法の姿. 理学療法ジャーナル, 53 (10), 999-1008, 2019
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