研究実績の概要 |
最近の我々の前向き介入研究では,他動誘導型運動錯覚療法と運動療法を組み合わせて実施することで,脳卒中重度片麻痺患者の痙縮が明らかに低減する結果が得られた(徒手的な臨床検査による)。以上の臨床的現象と,すでに我々が有する脳機能評価との統合的考察による現時点での核心的問いは,「補足運動野や運動前野など高次運動関連領野から脊髄までを含んだ神経回路における機能的変化の結果として痙縮が低減するのではないか」というものである。2022年度の研究実績の概要は,以下の通りである。 1. 脳卒中後慢性期にある重度麻痺患者において,痙縮や運動機能とDiffusion Tensor Imaging (DTI)によって取得されたFractional anisotropy(FA)値との関係性を調べた。その結果, 皮質脊髄路残存機能と痙縮の関係,そして皮質網様体路と皮質脊髄路の機能的平衡が運動麻痺および痙縮に対して強く影響することを示唆する結果が得られた(Miyawaki Y, Kaneko F, et al., J Neural Transm, 2023)。 2. 痙縮の定量評価について,2019年度までに開発したオリジナルデバイスを用いて,脳卒中後慢性期にある重度麻痺患者を対象に症例集積を継続して実施した。その結果,デバイスにより他動的な手関節伸展運動を実施した際に得られる橈側手根屈筋の表面筋電図データに信頼性があることが実証でき,痙縮の特徴である筋緊張の速度依存性の変化を検知することがわかった。 3. 脳卒中後慢性期にある重度麻痺患者10名に対して,視覚誘導性運動錯覚と反復経頭蓋磁気刺激の併用効果を検証するための臨床試験を実施した。その結果,視覚誘導性運動錯覚と補足運動野への反復経頭蓋磁気刺激の併用を行うことが,最も痙縮に対する介入効果が高い傾向にあることが現時点でわかっている。
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