研究課題/領域番号 |
19H01103
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
笠原 正治 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (20263139)
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研究分担者 |
笹部 昌弘 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (10379109)
川原 純 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (20572473)
張 元玉 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (90804013)
原 崇徳 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (70907881)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ブロック・チェーン / DSSトリレンマ / 低遅延P2Pネットワーク / 高速ブロック同期 / IoTアクセス制御 |
研究実績の概要 |
(1)PoS型ブロック・チェーンにおけるインセンティブメカニズム設計 ブロック・チェーンの合意形成アルゴリズムであるProof-of-Stake (PoS)では,参加ノードの投票によって生成ブロックの正当性を検証する.PoSでは,不正な投票が増大すると適切な合意形成ができなくなるため,参加ノードに正しい投票を行わせるインセンティブ・メカニズムが重要である.ここでは参加ノードの投票信頼度を考慮した報酬罰則メカニズムを提案し,信頼度に基づいて報酬もしくは罰則を与えることで,参加ノードが保有する保証金の量を変動させる方式を検討した.計算機シミュレーションにより,提案手法により投票ノードの信頼度の時間変化を高精度で推定できることを確認するとともに,参加ノードの投票行為に対して適切な報酬付与と罰則を課すことができることを確認した. (2)ビットコインにおける機械学習を用いたマイニングプール選択手法 ビットコインでは複数のマイナー・ノードがマイニングプールと呼ばれるグループを形成してハッシュ計算を行っている.参加ノードに対する報酬は貢献度に応じて配分されるため,マイナー・ノードは大きい収益が期待できるマイニングプールを選択しようとする.一方,マイニングプールのセキュリティ問題として,マイナー・ノードをスパイとしてプールに潜入させ,ブロックを発見してもプール管理者に通知しない形でマイニングを妨害するBlock Withholding (BWH) 攻撃が知られている.ここではBWH攻撃を受けていないマイニングプールをマイナー・ノードが自動的に選択する強化学習モデルを考え,Q学習,DQN, A2Cの3種類のアルゴリズムについて,計算機シミュレーションによる特性評価を行った.その結果,3種類の強化学習アルゴリズムは最適なプール選択を行うことを確認するとともに,A2CがDQNと比較して報酬と収束性の点で高い性能を示すことを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は(1)Proof-of-Stake型ブロック・チェーンに対する報酬罰則型投票メカニズムの研究,(2) Block Withholding (BWA) 攻撃における悪意あるマイナー検出に向けた機械学習応用,(3) 有向非巡回グラフ(DAG)構造を持つ分散台帳の高速同期に向けたDAG幅測度の検討,の三点を中心に検討を進め,順調に研究が進展している. (1)Proof-of-Stake (PoS)型ブロック・チェーンに対し,参加ノードの投票に対する信頼度を考慮した報酬罰則メカニズムを提案し,計算機シミュレーションにより,提案手法により投票ノードの信頼度を高精度で推定できることを確認するとともに,投票ノードの投票行為に対して適切な報酬付与と罰則を課すことができることを確認した. (2)ブロック・チェーンにおけるセキュリティ脆弱性問題として Block Withholding (BWA)攻撃に着目し,サポートベクターマシンを用いて悪意あるマイナーを検出する手法を提案し,計算機シミュレーションにより推定精度を評価した.推定精度はブロック生成過程の観察期間の長さに依存するため,マイナーのハッシュレート分布やプールレベルのハッシュ計算難易度を変化させた実験も行い,推定制度と観察期間のトレードオフ関係がどのように変化するかを現在分析中である. (3)IOTAの分散台帳であるTangleでは有向非巡回グラフ(DAG)と呼ばれるデータ構造が採用されている. DAG構造を持つ分散台帳において,チェーンに近い構造は有向枝の数が少なくて同期が取りやすく,一方で有向枝の数が多いDAG形状は同期の取りにくい構造であることが知られている.ここでは同期の取りやすさを測るための指標としてDAG幅の概念を新たに導入し,理論的な特徴とDAG幅を計算する効率的なアルゴリズムについて検討を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
(1)トランザクション手数料とセキュリティの脆弱性の関係を分析する数理モデルを待ち行列理論とゲーム理論を用いて検討する.ここではユーザとマイナーそれぞれのインセンティブに基づく参加離脱行為がブロック・チェーン自体のセキュリティに与える影響を分析するとともに,ブロック・チェーンで自動的に生成する新規トークンがトランザクション手数料・総ハッシュパワー・承認遅延の均衡点に与える影響についても定量的な分析を行う. (2)PoS型ブロック・チェーンで参加ノードに正しい投票を行わせるインセンティブ・メカニズムについて,参加ノードの投票履歴に基づく信頼度指標を用いて報酬・罰則を与える方式を発展させ,投票参加の効用として参加ノードの拠出するステーク量を基にした効用関数を考え,投票結果に対して与える報酬罰則については参加ノードの損失回避性を考慮してトークン量を決定するインセンティブ・メカニズムを検討し,計算機シミュレーションで投票参加ノードが獲得する報酬を評価することで提案方式の有効性を検証する. (3)ブロック・チェーン・オラクルは,データをブロック・チェーンに間接的に関連づけたオフチェーン型のデータ構造として取り扱う仕組みである.ここではブロック・チェーン・オラクル技術を用いたIoTアクセス制御技術としてブロック・チェーン・レイヤ,ストレージレイヤ, オラクルレイヤの3階層からなるアクセス制御システムを検討する.アクセス制御方式の主要部分の一つであるサブジェクト・オブジェクトを連携するアドレステーブルについては,IOTAプラットフォーム上でアドレステーブルを3階層それぞれに対して実装した場合の処理性能を評価し,高性能でセキュアかつ低コストなアクセス制御方式を実現するシステム構成法を明らかにする.
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