研究課題/領域番号 |
19H01119
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
中内 茂樹 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00252320)
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研究分担者 |
伊村 知子 日本女子大学, 人間社会学部, 准教授 (00552423)
松井 淑恵 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10510034)
白井 述 新潟大学, 人文社会科学系, 研究教授 (50554367)
Shehata Mohammad 豊橋技術科学大学, エレクトロニクス先端融合研究所, 准教授 (60444197)
日根 恭子 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70625459)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 選好 / 発達 / 社交性 / 反応バイアス / テンポ |
研究実績の概要 |
本研究課題は、発達を認知バイアスの形成過程として、熟達を専門的トレーニングによる認知バイアスの変容として捉え、一般成人および幼児・小学生や専門家を対象とした視聴覚実験を通して発達・熟達が選好に与える影響を分析することを目的としている。1) 音楽のテンポ選好に関し、心理物理実験を実施し、得られたデータについて分析を行い、テンポ選好の個人差における覚醒度の関与を検討した。 2) ヒトの視覚的選好の発達とその進化的基盤を明らかにするため、本年度は視覚刺激に対する嫌悪の発達に着目し、ハスの花托や蜂の巣といった穴の集合体に対する嫌悪、すなわち集合体恐怖に影響を及ぼす要因ついて検討した。またヒトでは、集合体に対する嫌悪と皮膚病等の感染症の回避との関連が示唆されていることから、集合体を回避する傾向がヒト以外の霊長類にも生じるか否かについても検討した。3) 乳児期の顔選好に影響する諸要因のうち、顔刺激の内包する視線情報が、乳児(生後6-12カ月)の社交性とどのように関連して顔選好を形成しうるかを検討した。他者との関わりにおいて不安傾向の高い乳児(N = 20)と、不安傾向の低い乳児(N = 20)を保護者への聞き取りをもとに群分けし、それぞれの群について「視線が合って見える顔(直視顔)」と「視線が逸れて見える顔(逸視顔)」を対提示し、前者への選好を測定した。4) 音楽の歌唱は、通常の言語音声の発声とは異なり、特定のピッチを定常的に発声する必要がある。さらに、音楽では同時に複数のピッチの音が重なり合うことによる音程が生まれる。この音程の条件によって、歌唱者のピッチに影響(選好)が生じるかどうかの実験を行った。実験にはリアルタイムで歌唱ピッチ(基本周波数)をフィードバックするアプリケーションを用いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下に示す成果が着実に得られている。1) 内部テンポと、覚醒度の関連を明らかにするため、音楽の素人を対象とした心理物理実験を実施した。その結果、内部テンポが音楽聴取時の覚醒度を調整する可能性が明らかとなった。2) 成人および4ー9歳児を対象に、集合体の構成要素の個数や重なりが嫌悪感に及ぼす影響について検討した。その結果、6歳以降になると、成人と同様に、集合体の要素の個数や重なりの増加に伴い、嫌悪感が増加することが明らかになった。また、集合体嫌悪の種を超えた普遍性を探るため、チンパンジーを対象に集合体画像に対する回避反応を検討した。実験では、集合体画像と中性画像に対する注視反応を比較することにより、集合体画像に対する回避反応が見られるかどうかを調べている。3) 乳児期の顔選好に視線情報が与える影響を検討した実験においては、先行研究の知見を踏まえて、不安傾向の高い乳児では他者との高い接触可能性を表現する直視顔への選好が低下することが予測された。しかしながら、不安低・高群間で選好値に有意差は認められなかった。一方で、不安傾向の高低にかかわらず、視線の向きより顔全体の向きの方が乳児の顔選好に貢献している可能性が示唆された。また、乳児期の顔そのものへの選好については、視線の方向よりも顔全体(e.g., 顔の輪郭)の向きの方が、より強い要因として働いている可能性を示唆する。4) 歌唱者に特定のピッチを歌唱させる間、異なるピッチを聞かせることによって、重唱と似た状況を設定した。その状況下で、歌唱者のピッチがターゲットのピッチとどの程度ずれが生じるかを測定した。その結果、歌唱の訓練を受けていない被験者の場合、そもそも歌唱のピッチをターゲットに合わせることが難しく、実験パラダイムの工夫が必要であることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
1) 令和2年度実施予定であった、音楽のプロを被験者とする心理物理実験を実施する。前年度までの実験結果とともに総合考察し、音楽選好の発生メカニズムに関する認知モデルについて検討する。2) 集合体恐怖の発達については、得られた結果を論文にまとめて投稿する予定である。また、集合体画像に対する回避反応の種を越えた普遍性を探るため、チンパンジーを対象とした実験を継続する。3) 乳児期の顔選好に及ぼす要因についての研究では、今年度の成果から明らかになった「顔全体の向きの効果」について追加の実験を実施する。今年度と同程度の人数の参加児を対象に、倒立顔図形を用いて顔選好を測定する。倒立顔図形は顔知覚・認知一般の効果を減じることが知られており、倒立顔図形に対する顔向き(正面を向いているか、斜め前を向いているか)の選好が減弱するかどうかを通して、顔全体の向きの情報が顔に対する選好要因として効果を持つかどうかを検討可能であると考えられる。4) 歌唱実験に関しては、歌唱訓練を受けていない被験者にターゲットのピッチを持続的に発声させることが困難であることが明らかになった。このため、ターゲットピッチを発声できるようになるまでの時間を確保し、かつ、同時に聞こえるピッチに惑わされないような条件(音圧等)を探っていく必要がある。
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