研究課題/領域番号 |
19H01130
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
菅野 重樹 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00187634)
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研究分担者 |
石井 裕之 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (10398927)
亀崎 允啓 早稲田大学, 理工学術院総合研究所(理工学研究所), 主任研究員(研究院准教授) (30468863)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 人間共存ロボット |
研究実績の概要 |
(A)不快感と力学的作用を考慮した人間への能受動接触技術の開発: 人間が、ロボットからの働きかけを受ける際に受ける不快感を最小化するために、ロボットの柔軟な身体を実現するための、インフレータブル構造について調査を行った。 (B)人間の行動センシングに基づく観測および洞察手法の開発: 人間の振る舞いから、筋力や神経系の疾患の有無などの運動能力を、さらに、視線や頭部の向きなどと統合して行動の予測を行う手法について検討した。モーションキャプチャによる計測データから、身体の動作を推定し、さらにそこから心理状態を推定する手法の構築を進めた。 (C)機械学習に基づく反応行動の反復的評価と適応技術の開発: ロボット(人間)の行動に対する人間(ロボット)の反応行動の反復的評価と適応技術を深化させた。実際の作業データから得られた内界・外界情報を効果的に記憶するデータベース化技術を構築し、そのデータベースと新しく得られた経験から、ロボットの動作パラメータの調整是非および調整の度合いを算出するアルゴリズムを開発した。体験の強度と頻度をパラメータとした動作学習の安定化手法を導入した。実機ロボットに実装し評価を行った結果、行動に伴って適切な行動が選択されることが確認できた。 (D)システム統合と統合実証実験: Bで開発した人間の観測・洞察モデルをベースに行動決定を行い、Aで開発した接触をはじめとする働きかけを行う統合実験を実施した。2021年度と同様に、人間とロボットが混在して活動空間を共有する環境について、各種アルゴリズムの検証を行った。これまでに、効率安全面に関しては十分な評価が得られたため、長期的インタラクション実験に基づく社会受容性について評価した結果、接近や接触が不可欠な状況においては、人はそれらを許容する傾向にあることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(A)不快感と力学的作用を考慮した人間への能受動接触技術の開発: 熱溶着によってさまざまな形状のインフレータブル構造を簡単に成形する技術を開発し、成形したインフレータブル構造によってロボットを創り出す設計論の構築をすすめた。またインフレータブル構造で構成されたロボットから人間が受ける印象について調査し、ロボットに求められる柔らかさについて多角的に知見を積み上げた。 (B)人間の行動センシングに基づく観測および洞察手法の開発: 人間がロボットとのインタラクションから受ける印象は、インタラクション発生直後から経時的に変化することが明らかとなった。その結果、経時的変化を、いくつかの期にわけて論ずる重要性を認識し、適切な期の分割方法について検討を進めた。 (C)機械学習に基づく反応行動の反復的評価と適応技術の開発: 昨年度の発展研究として、ロボット(人間)の行動に対する人間(ロボット)の反応行動の反復的評価と適応技術のフレームワークを実機実機にて評価を行うことができた。われわれ人間が行っている方法と同じ様に、経時的に得られていく体験を解釈しながら(時には、相手の行動がイレギュラーだと判断したりしながら)、ロボット自身の行動変容を行うか否かを判断できる適応技術を構築・評価できた点は大きな成果となった。 (D)システム統合と統合実証実験: 2022年度は、これまでに開発し、ブラッシュアップしてきた各種アルゴリズムの有用性を確認した。特に、人共存での自律移動を行う長期間インタラクション実験において、人の観察・洞察に基づき、より社会受容性の高い「場に合わせた」行動をとれるだけでなく、このようなロボットは、必要不可欠な接近や接触が許容される傾向にあることが示唆されたのは大きな進展となった。 以上より、本研究課題は、当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
(A)不快感と力学的作用を考慮した人間への能受動接触技術の開発: 人間とロボットの相互誘導を生み出す接触支援技術を開発する。ロボットの身体の特徴や機能が、ロボットからの働きかけを受けた際に人間が受ける印象にもたらす心理的影響について調査を行う。具体的には、柔らかさを表面的柔らかさ、構造的柔らかさ、全体的柔らかさなど複数の要素に分解し、各要素と人間が受ける印象について調査する。 (B)人間の行動センシングに基づく観測および洞察手法の開発: ロボットとのインタラクション場面における人間の振る舞いから、対象物に対する興味、不安、恐怖などの心理状態を予測する手法の構築を試みる。脳血流計を用いた脳活動の計測と、ロボットに搭載可能なモーションキャプチャを用いた身体各部位の動作の計測を同時に行い、それらを時系列的に解析することで洞察手法の確立を目指す。 (C)機械学習に基づく反応行動の反復的評価と適応技術の開発: 2022年度の成果を踏まえ、2023年度は、状況と行動の関係性を蓄積したデータベースを再利用することで、未知環境への早期適用を目指す。また、ロボットの計画行動と実際にロボットがとった行動との差分に対して、回避の大きさや交わされる会話等から、更新判断に利用する蓄積データ数の自動調整(調整感度調整)を行い、動作学習の安定化および早期化について検討する。 (D)システム統合と統合実証実験: 具体的な人とロボットが協調タスクを行うタスクを実施する。まず、オフィス環境として、混雑した廊下の移動やエレベータの乗降などを行う。さらに、家庭内での家事タスク(片付けなど)を実施する。人の状態や意図の観測・洞察に基づき、適切な手段での働きかけを行えることを確認する。さらに、適応技術により、経験を経るごとにロボットと人間の協調関係がよりよく改善されていくことを確認する。
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