研究課題
2019年度は,氷河上微生物の繁殖拡大過程の理解のためにアラスカの氷河の調査を行った.調査対象は,アラスカ中部のグルカナ氷河で,7月におよそ1ヶ月にわたって調査を行った.調査では,特に消耗域の微生物の空間分布を地図化するために,定間隔の雪氷サンプルの採取とドローンによる空撮を実施した.ドローンによる空撮の結果,消耗域では雪線に近い上流側で表面の暗色化がより進んでいることがわかった.採取した雪氷サンプルの分析の結果,クロロフィル濃度は消耗域上流部で高く,氷河上の微生物構成は上流側では緑藻の1種であるSanguina属が優占しており,下流側とは異なることが明らかになった.さらに,氷河上に堆積した有機物の炭素・窒素安定同位体比を分析した結果,上流側と下流側では微生物が同化している窒素源が異なることを示唆された.以上の結果,アラスカの氷河の調査によって,従来グリーンランド氷床等で明らかになっている藻類繁殖とは異なる暗色化のプロセスが存在することが強く示唆された.今後,採取したサンプルの化学分析と微生物分析をすすめて氷河上微生物の空間分布の決定要因を明らかにする予定である,藻類色素分析のHPLCの購入を予定していたが,使用を予定していた千葉大学のイオンクロマトグラフィーの故障の修理を優先することにし,HPLCの購入は次年度以降または別の予算の可能性の検討など再考することにした.当初予定していた中国天山の氷河の調査は,調査許可を得ることができず,実施できなかった.また2月以降に計画していた中国科学院の共同研究者Li氏との研究打ち合わせも,新型コロナ感染症の影響のため海外渡航ができず次年度へ延期したが,結局2020年度も海外出張できる状況にはならず,Li氏とはオンラインの打ち合わせを行い,引き続き調査の可能性を検討することにした.
2: おおむね順調に進展している
計画していたアラスカ氷河の調査は実施できたが,中国天山の調査は実施できなかった.アラスカの調査,分析計画は,概ね当初の予定通り進んでおり,採取したサンプルの化学分析と微生物分析も順調に進んでいる.また,氷河上の微生物空間分布の調査の結果,従来知られていなかった知見を得ることができ,微生物繁殖拡大の要因解析の重要な手がかりを得ることができた.中国天山の調査は,残念ながら調査許可の問題で実施できなかったが,北極域との比較を行うために重要な場所であるので,引き続き調査の実施可能性を探りたい.
新型コロナ感染症の影響で計画していた国外の氷河調査が限定的となる可能性が高くなった.そのため,限られてはいるが過去の調査で採取したサンプルやデータを活用し,化学分析や微生物分析を可能な限り行うことを計画している.また,海外の氷河調査の代わりに,国内山岳地域の雪氷調査で代替可能なことを考え,研究を進めていく予定である.微生物モデルの拡張や衛生画像解析については,北極域の氷河に焦点をあてて進めていく予定である.
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 6件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 10件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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