研究課題/領域番号 |
19H01150
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
岩田 久人 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (10271652)
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研究分担者 |
国末 達也 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (90380287)
石橋 弘志 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (90403857)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 感受性 / エストロゲン受容体 / ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体 / 化学物質 / POPs / 水棲哺乳類 / アザラシ |
研究実績の概要 |
1)バイカルアザラシのエストロゲン受容体(ER)シグナル伝達経路に及ぼす残留性有機汚染物質(POPs)曝露の影響を評価するために、2種のバイカルアザラシER(bsERα・bsERβ)を対象にin vitro レポーター遺伝子アッセイ系を構築し、POPs暴露によるbsER転写活性化能を測定した。p,p'-DDTおよびp,p'-DDEを曝露した結果、bsERsは用量依存的な応答を示した。In vitro でのbsERα転写活性化能に対するp,p’-DDTおよびp,p’-DDEの最低影響濃度とバイカルアザラシ野生個体群の肝臓中濃度を比較したところ、一部の個体では最低影響濃度に匹敵するレベルでこれらの化合物が蓄積されており、野生個体群ではbsERαシグナル伝達経路が撹乱されることが示唆された。また、ダイオキシン類とエストロゲン様化合物の共曝露は、ERシグナル伝達系へ相乗的に影響することも示唆された。 2)バイカルアザラシ・ヒトのペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)に対するパーフルオロアルキル-カルボン酸塩(PFCAs)・-スルホン酸塩(PFSAs)を含むパーフルオロアルキル物質(PFASs)の結合親和性を評価した。In vitro競合結合アッセイは、6種のPFCAsと2種のPFSAsが、用量依存的にアザラシ(bsPPARα)及びヒトのPPARα(hPPARα)LBDタンパク質に結合することを示した。In silico PPARαホモロジーモデリングにより、bsPPARαとhPPARαには2つのリガンド結合ポケット(LBP)が存在することが予測された。構造活性相関解析の結果、PFASsのPPARαへの結合力は、LBPの体積・水素結合相互作用・炭素数、およびPFASの疎水性に依存することがわかった。また種間比較した結果、bsPPARαはhPPARαに比べて炭素鎖の長いPFASを優先的に結合することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は特にバイカルアザラシのアザラシペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)・エストロゲン受容体(ER)を対象とし、環境汚染物質群(エクスポゾーム)とこれら細胞内受容体の相互作用を解析した。 In vitroレポーター遺伝子アッセイ(iv-RGA)系やin vitro 競合結合アッセイにより各細胞内受容体の活性化能を測定した。次いで反応が認められた環境汚染物質については、濃度依存的な受容体活性化能を測定し、用量ー応答曲線より最小影響濃度(LOEC)・50%影響濃度(EC50)およびリファレンス化合物に対する相対活性値(Relative Potency: REP)を算出した。 またタンパク質立体構造データベース(Protein Data Bank)からヒトの細胞内受容体立体構造データを入手し、それをテンプレートとしてバイカルアザラシ細胞内受容体のホモロジーモデルを構築した。さらにバイカルアザラシの各臓器・組織で検出された環境汚染物質と細胞内受容体の相互作用のモードと強さをドッキングシミュレーションで定量的に解析した。このドッキングシミュレーションの結果はin vitroアッセイの結果を支持した。 これらの結果は、今年度の研究実施計画の内容をほぼ網羅していることから、本研究課題は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も今年度同様に、多様な水棲哺乳類を対象とし、どのような環境汚染物質が各臓器・組織にどの程度蓄積するかを明らかにする。エクスポゾーム対象化学物質として新・旧POPs・内分泌かく乱化学物質・医薬品類・生活関連物質・難燃剤などを測定する。 また、水棲哺乳類の各臓器・組織で検出された環境汚染物質と水棲哺乳類の各細胞内受容体の相互作用をインシリコ解析し、相互作用する可能性のある物質をスクリーニングする。次いで環境汚染物質と細胞内受容体の相互作用の種類と強さをドッキングシミュレーションで定量的に解析する。強い相互作用が予想された環境汚染物質を対象に、インビトロレポーター遺伝子アッセイ系により各受容体の転写活性化能を測定する。 次年度はさらに水棲哺乳類の細胞へ曝露試験をおこなう。曝露試験には、野生個体の各組織から単離した初代培養細胞もしくは線維芽細胞を用いる。暴露した細胞については、トランスクリプトーム・プロテオーム解析に供する。 細胞内受容体発現依存的かつ化学物質曝露量依存的にmRNA・タンパク質の発現量の変動が認められた遺伝子群については、「化学物質-遺伝子・タンパク質-疾患」の関係を予測するため、オンラインツールを利用して、転写因子・パスウェイ・ネットワーク・疾患のエンリッチメント解析をおこなう。この解析によって、細胞内受容体シグナル伝達系撹乱に起因する疾患(影響)を予測する。 同一種から数十検体の試料が入手できる場合、各部位の凍結組織を試料とする。これら試料のの化学物質蓄積濃度・トランスクリプトーム・プロテオームを解析する。次いで、これら解析で得られた化学物質濃度とmRNA・タンパク質発現量の関係を相関分析する。有意な相関関係が認められた遺伝子群については、上記曝露試験の場合と同様に、転写因子・パスウェイ・ネットワーク・疾患のエンリッチメント解析をおこなう。
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