研究課題/領域番号 |
19H01150
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
岩田 久人 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (10271652)
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研究分担者 |
国末 達也 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (90380287)
石橋 弘志 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (90403857)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 感受性 / 細胞内受容体 / オミックス / 水棲哺乳類 / 化学物質 / 繊維芽細胞 / 有機ハロゲン化合物 |
研究実績の概要 |
今年度の成果は主に以下の3点である。 1)日本沿岸に漂着・座礁した鯨類11種の脂皮を対象に、ガスクロマトグラフ-四重極質量分析計(GC-MS) でスクリーニング分析を実施し、蓄積している有機ハロゲン化合物の同定を試みた。その結果、得られたトータルイオンクロマトグラムから有機ハロゲン化合物と思われるピークを約300種類確認した。検出数は人為起源が最も多く、次いで未知物質・天然起源物質が続いた。検出された化合物のうち約16%が未知物質であった。 2)瀬戸内海に座礁したスナメリ(Neophocaena asiaeorientalis)の線維芽細胞を用いた新しいin vitro細胞毒性アッセイ法を確立した。スナメリ線維芽細胞をポリ塩化ビフェニル(PCB)、ジクロロジフェニルトリクロロエタンとその代謝物(DDT)を含む17種類の環境汚染物質で処理し、細胞毒性・生存率・アポトーシスを評価した。スナメリ線維芽細胞の結果は、ヒト線維芽細胞の結果と比較した。試験化合物のEC50がスナメリとヒトの細胞で有意に相関していたことから、試験化合物の相対的な効力は両種間で同等であることがわかった。瀬戸内海のスナメリの組織に蓄積していたPCBとDDTの濃度は、本研究で得られた細胞毒性の50%影響濃度(EC50)値を上回ったことから、瀬戸内海のスナメリは、PCBとDDTの蓄積が細胞レベルで悪影響を及ぼす可能性が高いことが明らかになった。 3)ホッキョクグマ(Ursus maritimus)の芳香族炭化水素受容体(AHR)のcDNAクローンを単離することに成功した。さらにin vitroレポーター遺伝子アッセイにより、ダイオキシン類によるAHR依存的転写活性化能を測定した。またin silicoドッキングシミュレーションにより、ダイオキシン類と相互作用するAHRのアミノ酸残基を予想した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までは、バイカルアザラシ(Pusa sibirica)のアザラシペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)・エストロゲン受容体(ER)を対象とし、環境汚染物質群(エクスポゾーム)とこれら細胞内受容体の相互作用を解析した。In vitroレポーター遺伝子アッセイ(iv-RGA)系やin vitro 競合結合アッセイ系により各細胞内受容体の活性化能を測定した。またバイカルアザラシの各臓器・組織で検出された環境汚染物質と細胞内受容体の相互作用のモードと強さをin silicoドッキングシミュレーションで定量的に解析した。このドッキングシミュレーションの結果はin vitroアッセイの結果を支持した。 今年度は、日本沿岸に漂着・座礁した鯨類を対象に、ガスクロマトグラフ-四重極質量分析計(GC-MS) でスクリーニング分析を実施し、蓄積している有機ハロゲン化合物の同定を試みた。その結果、未同定の物質も含め、有機ハロゲン化合物と思われるピークが数多く確認された。さらに、瀬戸内海に座礁したスナメリ(Neophocaena asiaeorientalis)の線維芽細胞を用いた新しいin vitro細胞毒性アッセイ法を確立した。瀬戸内海のスナメリの組織に蓄積していたPCBとDDTの濃度は本研究で得られた繊維芽細胞毒性の50%影響濃度(EC50)値を上回ったことから、瀬戸内海のスナメリは、PCBとDDTの蓄積が細胞レベルで悪影響を及ぼす可能性が高いことが明らかになった。加えて、ホッキョクグマ(Ursus maritimus)の芳香族炭化水素受容体(AHR)のiv-RGAにより、ダイオキシン類によるAHR依存的転写活性化能を測定した。 これらの結果は、今年度までの研究実施計画の内容をほぼ網羅していることから、本研究課題は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
多様な水棲哺乳類の臓器・組織を試料とし、エクスポゾーム(化学物質曝露の全体像)解析を進める。エクスポゾーム対象化学物質として、新・旧残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants: POPs)・内分泌かく乱化学物質・医薬品類・生活関連物質・有機リン系難燃剤などを測定する。このほか、これまで未同定であった新規環境汚染物質を対象に、二次元ガスクロマトグラフ-飛行時間型高分解能質量分析計(GC×GC-HRTOFMS)を駆使して、ノンターゲット(測定対象物質を限定しない)分析技術の開発にも取り組む。 また、水棲哺乳類の各臓器・組織で検出された環境汚染物質と水棲哺乳類の各細胞内受容体の相互作用をin vitro実験により定量的に測定し、相互作用の種類と強さをin silicoドッキングシミュレーションで解析する。さらに水棲哺乳類の細胞へ曝露試験をおこなう。曝露試験には、野生個体の各組織から単離した初代培養細胞もしくは線維芽細胞を用いる。曝露した細胞については、トランスクリプトーム・プロテオーム解析に供する。細胞内受容体発現依存的かつ化学物質曝露量依存的にmRNA・タンパク質の発現量の変動が認められた遺伝子群については、「化学物質-遺伝子・タンパク質-疾患」の関係を予測するため、バイオインフォマティクスオンラインツールを利用して、転写因子・パスウェイ・ネットワーク・疾患のエンリッチメント解析をおこなう。この解析によって、細胞内受容体シグナル伝達系撹乱に起因する疾患(影響)を予測する。加えて今年度は同一種の野生個体群から数十検体の凍結試料を対象に、化学物質蓄積濃度・トランスクリプトーム・プロテオームを解析する。次いで、これら解析で得られた化学物質濃度とmRNA・タンパク質発現量の関係を相関分析する。
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