研究課題/領域番号 |
19H01153
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
松田 祐介 関西学院大学, 理工学部, 教授 (30291975)
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研究分担者 |
米田 広平 関西学院大学, 理工学部, 助教 (10829104)
田中 厚子 琉球大学, 理学部, 助教 (40509999)
原田 尚志 鳥取大学, 工学研究科, 准教授 (50640900)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 海洋性珪藻 / 二次葉緑体 / ピレノイド / 一次生産 / 光合成 |
研究実績の概要 |
地球一次生産の約20%を担う海洋性珪藻類の生産機能の中心的役割を果たす、葉緑体ピレノイドの構造、機能、およびその地球生態系への影響を見積もることを主眼とし、ゲノム情報および遺伝子改変ツールが整っている海洋性珪藻二種、羽状目Phaeodactylum tricornutumおよび中心目Thalassiosira pseudonanaを用いて研究をすすめた。 ①2019年度に光アミノ酸(PAA)という感光架橋性のジアジリン環を側鎖に持つ人工アミノ酸を用いて、P.tricornutumから単離した新奇ピレノイド構成成分Pyshell、Best、ACCase、およびθ型炭酸脱水酵素(CA)について、2020年度はT.pseudonanaにおいてもそれらの存在を確認した。さらにそれらと相互作用するいくつかの因子を、近位依存性ビオチン標識で選抜し、電気泳動レベルで確認した。さらに②両珪藻におけるこれら因子の局在を、GFPタギングにより標識された融合タンパク質を珪藻細胞内で発現し、確認した。さらに免疫電子顕微鏡観察によっても確認を進めた。③構成成分の発現をRNA干渉、ゲノム編集、および過剰発現技術を用いてかく乱した変異体を引き続き作成し、機能解析に供した。クロロフィル蛍光や酸素発生速度解析による機能解析によって、一部因子の機能推定に至った。また、2019年度終盤に珪藻に対して確立したCRISPR/Cas9ニッカーゼ法を本格的に運用し、多くの変異体選抜を行っている。プロジェクト全体としては、④珪藻葉緑体構造・機能・動態の分子モデル化、および⑤海洋遺伝子動態ビッグデータの解析も試験的行ったが、上記①~③を推進するための変異体取得を中心とした土台固めを本年度は優先的に行い、その成果の一部を国内学会で報告した。④の分子モデル化は、機能推定がなされた因子を順次含める形で徐々に進行しはじめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
① P.tricornutumの新奇ピレノイド因子Pyshellの相互作用因子と考えられるタンパク質を近位依存性ビオチン標識で選抜し、これを電気泳動レベルで確認した。また、ピレノイド貫通チラコイド膜に存在する新奇陰イオン輸送体候補タンパクBestをP. tricornutumで新たに2つ(合計4つ)発見した。ピレノイド機能への関与が考えられるBestは両珪藻で2つずつとなった。 ② 両珪藻でPyshellのピレノイド周辺局在を示す電子顕微鏡結果を得た(すべてを完了はしていない)。P.tricornutumで新たに発見されたBest因子2つはピレノイド内のチラコイド膜に局在することが強く示唆された。またT.pseudonanaのピレノイド近傍型θCAのうち、一つのピレノイド貫通チラコイド局在を免疫電子顕微鏡で確認し、他の2つはストロマ全体にあることも免疫電子顕微鏡観察で確認した。すなわち両珪藻でピレノイド貫通チラコイド内腔型θCAが存在することが分かった。 ③ 本年度から本格的に運用を開始しているCRISPR/Cas9ニッカーゼ法によりピレノイド因子のゲノム編集破壊を進めた。ゲノム編集を運用し始めている段階であり、すべての因子で良好な編集単クローン株が取得できているわけではないが、T.pseudonanaのストロマ型θCAでは単離に成功した(表現型がまだ出ていない)。また、チラコイド内腔CAの編集株は取得できず、この因子の欠損が致死的であることが示唆された。一方、Pyshell、Bestでは編集株と考えられるクローンを多数取得しているが、現在表現型決定には至っていない。 このように2020年度は制約がある中で、今後の解析に資する技術と変異体の蓄積が出来ており、また、ピレノイド機能の鍵となるBestやチラコイド内腔CAも系譜の離れた両珪藻で見出され、モデルの構築に一歩進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
今後の実験には、引き続き海洋性珪藻二種、P.tricornutumおよびT.pseudonanaを用いる。研究全体を、引き続き以下のサブプロジェクトに分け遂行する。 ①これまでに発見したピレノイド因子に対する相互作用因子を、改良型近位依存性ビオチン標識法(TurboID法)を用いて芋づる式にリストアップをすすめる。適宜光アミノ酸(PAA)による化学架橋標識も使用する。また、各因子の抗体作製を進め、生化学的な解析系を充実させる。 ②リストアップされた候補から二次葉緑体移行シグナル(ASAFAPモチーフ)を持つものを優先的に選抜し、これらの遺伝子を取得する。この遺伝子に蛍光タンパク質遺伝子或いは蛍光低分子標識用HALOタグ遺伝子等を融合し、多波長蛍光によって細胞内局在の関連確認を行う。また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた免疫TEM観察を用いて、リストアップされた因子の局在を順次詳細に決定し、2020年度までに見出された新奇ピレノイド因子群については局在決定を完了する。 ③すでに局在確認したタンパク質(一部のPyshell、Best、ACCase、θ型炭酸脱水酵素)から順に、2020年度に運用を本格化している、CRISPR/Cas9ニッカーゼ法によるゲノム編集破壊をの対象とし、これら新奇ピレノイド因子が持つ、細胞の環境応答性、光合成、生育に対する影響を定量的に測定して機能決定する。 このように、引き続き一つひとつの新奇因子の機能同定を行いながら、使用する珪藻間での共通性・一般性を見出していく。2021年度以降は、上記Pyshell、Best、ACCase、およびθCAのより詳細な局在と機能を考慮に入れた、④葉緑体構造・機能・動態モデル化を本格化させ、⑤整備がさらに進みつつある海洋環境ゲノムデータを用いて、これら因子がグローバル環境に及すインパクトを情報学的に分析する。
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