研究実績の概要 |
本研究では、代表者ら独自の難水溶性エステルの効率的な合成法「イオン交換樹脂触媒法」を用いて、廃棄物系脂肪酸を原料として種々の脂肪酸エステルを合成し、脂肪酸基とアルコール基の構造が熱化学特性に及ぼす影響を評価する。そして、その影響を定量的に表現できるモデルを構築し、所望の融点を有する蓄熱材の設計法を確立する。 昨年度は、炭素鎖長1と2のアルコールを反応物として脂肪酸エステルの合成を行い、項目①の「種々の植物油からの脂肪酸エステル合成と得られたエステル混合物の熱化学特性の評価とデータベース化」と項目②の「試薬ベースの単成分系での脂肪酸エステルの熱化学特性の評価とデータベース化」に取り組んだ。 本年度は、項目②のデータベースの充実を目指し、炭素鎖長3~8のアルコールと、自然界に存在する偶数鎖の脂肪酸(C8,C10,C12,C14,C16,C18)を反応物として、樹脂法で市販品のない脂肪酸エステルを合成した。そして、どの反応物を用いた場合でも、逆反応がほぼ完全に抑制され、完全転化率を達成できることを示した。また、実験後の反応液から残存するアルコールを蒸留除去するだけで、純度98%以上の高純度の脂肪酸エステルが得られることも明らかにした。 そして、上記の48種の脂肪酸エステルの熱化学特性として融点と潜熱を測定した。アルコール鎖長については、偶数と奇数で傾向が異なったため、偶数のみ、奇数のみと分けて脂肪酸鎖長の影響を議論した。その結果、融点は、アルコール鎖長3あるいは4で極小値を示すこと、脂肪酸鎖長は長くなるにつれて高くなることが分かった。 以上の結果に基づき、建材用途に適した蓄熱材(融点16-25℃、潜熱>170J/g)を探索したところ、鎖長8のアルコールと鎖長16の脂肪酸からなる天然素材エステルが、従来の石油系蓄熱材(n-ヘキサデカン)と同等の優れた特性を示すことが分かった。
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