本研究では、代表者ら独自の難水溶性エステルの効率的な合成法「イオン交換樹脂触媒法」を用いて、廃棄物系脂肪酸を原料として種々の脂肪酸エステルを合成し、脂肪酸基とアルコール基の構造が熱化学特性に及ぼす影響を評価する。そして、その影響を定量的に表現できるモデルを構築し、所望の融点を有する蓄熱材の設計法を確立する。 昨年度までに、炭素鎖長1~8のアルコールと、自然界に存在する偶数鎖の脂肪酸(C8~C18)を反応物として48種の脂肪酸エステルを合成、それらの熱化学特性として融点と潜熱を測定し、データベース化した。市販品は炭素鎖長1と2のアルコールの脂肪酸エステルしかないため、本研究で初めて得られた知見となった。しかし、単成分では48種のうちたった3種のみが建材用蓄熱材として利用可能であり、地域の気候に合わせた細かな融点調節のためには、融点の異なる2種の混合が必須と考えられる。 本年度は、効果的な融点調節を可能とするため、単成分の熱特性データベースに基づき、任意の2成分系の融点の推算法を検討した。そして、理想溶液モデルを用いて推算した固液平衡線から共晶点を求めることで、目的融点を持つ脂肪酸エステルの種類と混合組成を探索できることを明らかにした。 次に、脂肪酸エステルの構造式から測定なしに熱特性を予測するための手法の検討を行った。前述のデータベースで特徴的な傾向がみらなかったことから、経験式や寄与法といった統計学的な手法での推算が困難と考えた。そこで、分子動力学計算を用いて結晶の融解をシミュレートすることで熱特性を推算する手法を検討した。その結果、単成分の熱特性推算では、1)液体構造から昇温させ密度変化を追跡することで融点を推算、2)数千個の結晶構造を予測しエネルギーが小さい順にランク付け、3)最も小さいエネルギーの構造から潜熱を推算、という手順が有効であることを明らかにした。
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