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2022 年度 実績報告書

マイクロカプセルを介した化学物質の新たな環境動態の解明と評価

研究課題

研究課題/領域番号 19H01166
研究機関愛媛大学

研究代表者

鑪迫 典久  愛媛大学, 農学研究科, 教授 (40370267)

研究分担者 寺崎 正紀  岩手大学, 人文社会科学部, 教授 (10363904)
山岸 隆博  国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康領域, 主任研究員 (30379333)
堀江 好文  神戸大学, 内海域環境教育研究センター, 准教授 (60785137)
山室 真澄  東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (80344208)
石橋 弘志  愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (90403857)
研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2024-03-31
キーワード難水溶性物質 / 試験困難物質 / 生態毒性 / マイクロプラスチック / ミジンコ / メダカ / カプセル合成
研究実績の概要

マイクロカプセル(MC)とは、芯材に様々な化学物質を封入した微細な粒子状物質を指す。カプセルに封入された化学物質は、化学物質本来の化学構造から推定される環境動態とは異なる動きを示し、欧州ではマイクロプラスチックと同等に規制対象となっている。昨年までに水中でカプセル剤の方が水生生物に対して遅効性効果を示すことを明らかにできたが、市販のMCでは添加剤等の影響があるため、MCだけの影響を検出できないことが判明し、自ら純粋なMCを合成し生物試験に供して環境中MCの挙動を明らかにすることを試みた。当初MC合成装置を使ったMC合成が、消耗部品の入手が困難な状況にあることが判明し、量産が上手くいかなかったが、少量で合成条件を検討することができた。
本年度は、MC合成装置を使わずに合成する方法を検討した。乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)を基材とし分散剤にポリビニルアルコール(PVA)を選び、基材と分散剤の濃度、成分比率を様々に組み合わせて反応条件を検討し、芯材成分の添加量も検討することにより、MCの合成に成功した。反応液を5回以上超純水で置換しながら遠心分離してMCの洗浄を行い、未反応の成分を除いた。均一性はMC合成装置による製造よりも低下するが、簡易に短時間で量産する手法を開発できた。顕微鏡下でミジンコがカプセルを摂取していることを確認したが、時々コントロールとしている空カプセルでも影響がみられることが判明したためその原因を追究している。メダカの仔魚(孵化後2週間)は空のカプセルで影響がなかったため、カプセルに内分泌かく乱化学物質(エチニルエストラジオール)を包埋して摂取させたところ、ビテロジェニンレセプターのmRNAがコントロールに比べて上昇した。MCの合成が上手く行っており、メダカ稚魚が摂取したのちに体内で破裂し、体内で曝露されていることが推測できた。今後は他の物質でも検討する。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

カプセル製剤を用いて、ミジンコやメダカ仔魚を用いたMCの急性毒性試験の実施およびその生態影響を検出は継続している。遅効性であることが判明したため、従来法よりも曝露期間を長くする改良手法を開発した。MC合成装置ではナノサイズの均一な粒子まで作成できるはずであるが、海外品のため一部消耗部品の調達が難しかったため、MC合成装置の稼働検討が停滞していた。そこでそれとは別に、MC合成装置を使わずに、2液の表面張力を利用して簡易にカプセルを合成する方法を検討し、条件検討に時間を要したが合成に成功した。合成品の直径はほぼ2~3μm程度の大きさとなった。ただしその大きさはミジンコやメダカ稚魚の摂取可能性には問題ない大きさであり、市販の柔軟剤中カプセルのサイズ(5~10μm程度)と比べて生物が摂取する上で問題となる大きさではなかった。
溶液中のMC数を血球計算盤と光学顕微鏡および粒子計測装置(PITA04)を用いて計測する手法もブラッシュアップした。従来のPITA04は凝集などで大きくなった粒子が混ざっているとセルが詰まってしまうという欠点があったが、幅の異なるセルを入手し、測定レンジを広げた。高周波の超音波発生装置を用いてカプセル破壊し、その心材成分を取り出し定量する方法の検討は継続中である。
エチニルエストラジオールを包埋したMCをメダカ稚魚に曝露したところ、mRNAが応答し、MCを摂取していることが判明した。また、香料成分の一つのリナロールをMCに包埋してミジンコに曝露したところ、ミジンコがオスを産仔したことから、香料によるミジンコの内分泌撹乱が確認できた。エチニルエストラジオールもリナロールも難水溶性物質であり、水生生物に対する曝露が難しい試験困難物質であるが、今回のエンドポイントは水溶解度以下でも検出できるので、今後水溶解度以上でしか検出できない試験困難物質で試験したい。

今後の研究の推進方策

MC合成装置に依らないMC合成方法を検討し、成功したが、MC合成装置を用いた合成についても引き続き検討する。消耗部品、マイクロ流路を切ったガラスプレートなど、コロナの影響がなくなっても相変わらず入手困難な部品があるものの、均一サイズの粒子が得られる点で魅力的である。当面はMC合成装置に依らないMC合成方法を利用して様々な物質を芯材といて包埋し、生物試験を行い、MCが環境中に放出さえた場合の生態影響についての知見を得る。
MCの環境リスクを評価するためには、影響評価(生態毒性)と曝露評価(環境中濃度)を知ることが必要であるが、MC化によって化学物質の特性が大きく変化することによって、環境中挙動が変化し、環境リスクも変化するエビデンスを明らかにする。より明確にリスク評価をすることが重要である。本年度は影響を検出し易い化学物質について曝露試験を行い、MCの試験系の確立を目指したが、次年度は環境汚染物質の中からMC化によって生態毒性が大きく変わると思われる化学物質を芯剤としてMCを合成し、環境リスク評価に資するための方策を考える。つまり、環境中半減期が短い易加水分解物質、水中濃度が高くない難水溶性物質や揮発性物質などは、MC化しなければ殆ど水中に存在できない為、それらの環境リスクは低いと想定できるが、仮にMC化された場合には強い毒性が発生する可能性がある。現在MCに内包する化学物質は未知または秘密になっているものが多いため、それら様々な性質の化学物質のデータを得ておくことによりMCの潜在リスクを明らかにする。
コロナ禍によるメンテナンス低下によって一時的にダウンした試験生物の管理も回復してきたため、引き続き維持管理に力を入れて、常に良好な生物試験ができるような体制を整備する。共同研究者との情報交流および人的交流も活発化させる。

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公開日: 2024-12-25  

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